今の日本に圧倒的に足りていないもの。それは女性のリーダーです。120位というジェンダーギャップ指数からもそのことが浮き彫りになる中、「大きな組織のトップ」というバトンを受け取った注目のリーダーたちは、どのように考え、自分の色を出しながら動いているのでしょうか。そして、彼女がリーダーになった理由とは? トップダウンでも、ボトムアップでもない、これからのリーダーに必要とされるスキルについても考察します。

 2013年に総合商社で初の女性執行役員になった茅野みつるさん。彼女がリーダーへの第一歩を踏み出したのはその10年前で、実は「出世や肩書には全然興味がなかった」と振り返る。米国弁護士の資格を持つ茅野さんは、法律のスペシャリストとして実務で十分手応えを感じていたからだ。それが今では、社内や社外の女性たちに「昇進のオファーを断らないで」というメッセージを送り続けるようになった。茅野さんの考えが変わった経緯、そして今、後輩世代に抱く思いとは?

伊藤忠商事常務執行役員/伊藤忠インターナショナルCEO茅野みつるさん
伊藤忠商事常務執行役員/伊藤忠インターナショナルCEO茅野みつるさん
1966年オランダ生まれ。米国コーネル大学法科大学院修了。米国の弁護士事務所のパートナーを経て、2000年に伊藤忠商事入社、企業専属弁護士となる。趣味でクラシック声楽家としても活動し、カーネギー・ワイルリサイタルホールでのリサイタル経験も持つ

 米国弁護士としてスタートした茅野さんのキャリアが転機を迎えるきっかけは、米国の弁護士事務所から伊藤忠商事への出向だったという。「最初は弁護士事務所の南カリフォルニアにあるオフィスで働いていましたが、のちに香港駐在になり、その後東京駐在になりました。その時、顧客だった伊藤忠商事の法務部に出向するという機会に恵まれ、それがすごく刺激的だったんです」

弁護士事務所では味わえなかった仕事の醍醐味

 「弁護士事務所では、既に交渉が成立していて、ある程度まで進んでいるような商談しか扱いませんが、伊藤忠商事の法務部では案件の最初のところ、例えば交渉相手への提案資料をつくるところから関われることに面白さを感じたんです。

 特に総合商社はさまざまな商材を扱っていて、インドネシアの大型のインフラ案件もあれば、繊維部門ではフランスのブランドとの交渉があり、ビジネスの範囲も地域性も広く、とにかくワクワクしました。営業担当者と一緒に仕事をしていくというのもすごく楽しかったんです」

 伊藤忠商事での1年間の出向を終え、サンフランシスコの法律事務所に戻りパートナーとして活躍したが、法律事務所の合併の話が持ち上がり、今後の身の振り方を考えていた。そんな時当時の伊藤忠商事の法務部長から声がかかり、「ぜひ」と入社を決めた。かねて持ち続けていた「家族のいる日本に帰りたい」という気持ちも後押しした。

 そして2000年に34歳で伊藤忠商事入社、3年後には法務部のチーム長となり、その10年後には法務部長・執行役員に就任と、組織内で出世の階段を駆け上がることになる。そんな茅野さんだが、もともとは「リーダーや管理職になるつもりはなかった」と話す。