政府や企業が必死で女性活躍を進めているにも関わらず、昨年発表されたジェンダー・ギャップ指数は過去最低の121位に。いまだ管理職の座は男性で占められています。ジェンダーギャップの解消は、個人の問題だけでなく日本の国際競争力を高めるためにも急務。企業などの組織は、そしてARIA世代の女性たちは、何をすべきでしょうか。組織で働く女性管理職や専門家のインタビューで考えていきます。

 中小企業にとって、人材確保や人材育成は大企業以上に大きな課題です。限られた人手で利益を追求していくためには、女性もキャリアを継続できる環境づくりが不可欠といえるでしょう。そうした中で、出産した女性社員ほぼ全員が仕事に復帰して働き続けているのが、群馬県にある朝倉染布です。同社で女性初の管理職であり、社員の働く環境の整備や制度改革に携わってきた総務部長の大塚博美さんに話を聞きました。

朝倉染布
古くから織物の街として栄えた群馬県桐生市で1892年に創業。東レなどの大手メーカーから委託を受け、生地の染色や撥水(はっすい)、消臭、抗菌防水などの各種加工、インクジェットプリントなどを行う。撥水加工はオリンピック選手の水着の素材にも用いられている他、自社製品事業で開発した「超撥水風呂敷『ながれ』」は2011年にグッドデザイン賞を受賞。

以前は出産を機に退職、今は育休後に復帰が当たり前

―― 朝倉染布は2017年には女性活躍推進法の「えるぼし」認定で最高位の三ツ星を取得するなど、女性活躍推進の取り組みが評価されていますね。女性のほうが平均勤続年数が長いというのも驚きました。

大塚博美さん(以下、敬称略) 当社は社員が約100人で女性は4割弱。2019年のデータでは、女性社員の平均勤続年数は20年を超えていて、男性社員(平均19年)よりも長くなっています。1998年は約7年でしたから、3倍近くに伸びました。

 女性が長く働き続けるようになった一番の要因は、育児休業を取得するようになったためだと思います。以前は出産を機に退職するケースがほとんどでしたが、1995年に初めて取る者が出て以来、ほぼ毎年1~3人が1年程度の育休を取得。妊娠、出産後も働き続けるのが当たり前になっています。育児や介護の休業規定は、法律を上回る形で先駆けて制度を整えてきました。

 あとは、時間単位の有給休暇もよく使われています。男性の子育て参加促進の狙いもあって導入しました。社員の多くが車で20分くらいのところから通勤してくるのですが、子どもの授業参観に参加したり、朝の交通指導をしたりするときに、1日や半日の休みを取らなくて済んでいます。

―― 実際に制度を利用して働き続けようと思えるのは、子育てしながらでも安心して働ける環境があるからこそですよね。社員同士の理解も進んでいるのでしょうか。

大塚 1人、2人と育休を取るにつれて、取りやすい雰囲気ができていきました。女性たちは子育てや介護などそれぞれにいろんなことを経験していて、お互いの事情や気持ちが分かるんですよね。だから子どもが急に熱を出したときも、周りのほうから「迎えに行ってきなよ」と声をかけて気遣ったりしています。男性社員も、女性社員から「赤ちゃんができました」という報告を受けたら、育休を取って復帰するものだと自然に受け入れています。

 それに、女性社員が育休に入るタイミングは、他の社員にとってはキャリアアップの機会にもなっています。

―― それはどういうことでしょうか。

総務部長の大塚博美さん。2017年にえるぼしの認定を受けたことで、その年に初めて女性の営業職を新卒採用できたという。「東京の大学を卒業した後は群馬へUターン就職することを希望していて、『えるぼしを取っている会社ならきっと働きやすいだろう』とうちに来てくれました。自社製品事業の営業担当として活躍しています」
総務部長の大塚博美さん。2017年にえるぼしの認定を受けたことで、その年に初めて女性の営業職を新卒採用できたという。「東京の大学を卒業した後は群馬へUターン就職することを希望していて、『えるぼしを取っている会社ならきっと働きやすいだろう』とうちに来てくれました。自社製品事業の営業担当として活躍しています」