パワハラ、マタハラ、リモハラ…職場でのさまざまなハラスメントが問題になっています。昔からの職場の慣習が思わぬハラスメントになったり、部下への言葉がパワハラと受け止められたりと、気づかないうちに自分が加害者になる可能性も。自分やチームの中のアンコンシャス・バイアスを排して、多様性のある職場をつくるための最新事情を専門家や企業担当者に聞きました。

 「ハラスメント」という言葉が普及し、世の中の動きと連動して新たなハラスメントも生まれています。一方で、具体的にどんな言動がだめで、どこまでが許されるのか、判断に迷う場合も少なくありません。今回は元裁判官で、ハラスメント問題に詳しい弁護士の井口博さんに、ARIA世代が気を付けたい職場のハラスメント事例とその判断基準を聞きました。

弁護士 井口博
弁護士 井口博
東京ゆまにて法律事務所代表。一橋大学法学部卒業。同大学院を経て1978年に裁判官任官。法務省訟務検事、大阪地裁判事などを務め89年に退官。92年ジョージタウン大学大学院修士課程修了。第二東京弁護士会登録。これまで1000件以上のハラスメント相談に対応する。近著に『パワハラ問題-アウトの基準から対策まで』(新潮社)

「○○ハラ」は50種類以上 誰もが当事者になりうる

 「ハラスメントは、人間関係において立場上の優位性がある場所で起こりやすい問題です。特に、SOSの声を出しづらい立場や閉鎖的な職場環境にいる人は被害に遭いやすいという特徴があります」と井口さん。

 近年では、大企業やスポーツ界、著名人が関係するハラスメント問題が注目を集めました。

 「訴訟で『勝てる』ケースが広く知られるようになり、職場におけるハラスメント訴訟件数は増えています。かつては見過ごされていた性別や年齢、性的指向に関する嫌がらせにも“○○ハラ”と名前が付くことで、改善すべき問題として社会の意識が高まったという側面もあります。現在ハラスメントの種類は50以上あると言われ、誰もが加害・被害の当事者になりうる身近な問題です」

コロナ下で生まれた最新ハラスメント

 新型コロナウイルスの影響により、コロナ・ハラスメント(コロハラ)やワクチン・ハラスメント(ワクハラ)、リモート・ハラスメント(リモハラ)など新しいハラスメントも生まれています。

 「例えばコロハラは、新型コロナの感染者に対して『あなたの不注意だ』『こんな時に飲みに行くからだ』などと言ったり、根拠のない配置転換や退職勧奨をしたりすることです。新型コロナワクチンを接種していない人を無断で公表したり、不必要に業務の担当を変えたりした場合は、ワクハラに当たります」

「人を困らせる行為」を意味するハラスメント。新型コロナの感染リスクが高い医療従事者等への理不尽な差別や嫌がらせもコロハラに含まれる
「人を困らせる行為」を意味するハラスメント。新型コロナの感染リスクが高い医療従事者等への理不尽な差別や嫌がらせもコロハラに含まれる

 在宅勤務の働き方が広がることで、公私の境界線が曖昧になり、相手のプライバシーに過度な干渉をするリモハラも起こりやすくなっています。そのほか、問題行為のある部下に注意をしただけで「パワハラだ」と言われるなど、何でもハラスメントと主張する「ハラ・ハラ」(ハラスメント・ハラスメント)もあります。

 「中には単なるマナー違反のような内容もあり、何でもハラスメントと言えばいいということではありません。日本の法律で規定されているハラスメントの範囲はごく一部。定義が曖昧な部分も多く、日常の中には“グレーゾーン”がグラデーションのように多数存在します。ハラスメントに関する基本的な知識を身に付けることは、無意識の加害を防ぐだけでなく、自分の身を守るためにも役立ちます」

 次ページから、コロハラやリモハラ、パワハラなどの事例を基に日常で気を付けたいハラスメントの知識や具体的な判断基準を紹介します。