2025年、すべての団塊の世代が後期高齢者に。大量のARIA世代が、親世代の介護に直面する日が間近に迫っています。「仕事と介護の両立」は大きな社会課題。しかし多様な制度や働き方が、選択によっては両立を阻む落とし穴になることも。「まだ先」と思っている人こそ今すぐ始めるべき準備があります。知らないと致命的な介護の常識、両立の時間管理術、介護にかかるお金……専門家や介護経験者の実例を元に、すぐ役立つ情報をまとめました。

 離れて住む親に介護が必要になったとき、どのように対処すればよいのか。漠然とした不安を抱えている人は多いだろう。実際に親とは同居せずに介護を続けている人のケースと、専門家のコメントから、何が必要かを学んでみよう。

絵里子さん(仮名)47歳、会社員、東京都内で1人暮らし。 両親はともに83歳、現在神奈川県で2人暮らし。母は現在認知症で要介護3

母の認知症 父の入院をきっかけに介護サービス導入

絵里子さん(以下、絵里子) 2019年の正月に帰省した際に、母の様子がおかしいと父から相談を受けました。最近新しいことを覚えられなくなったというのです。母は健康診断の際に、検便のやり方が分からなくなり、便を手に持って父に見せにきたそうです。ショッキングな出来事ですが、親の介護について真剣に考え始めるようになりました。

 5月に母が神経内科を受診し、認知症と診断。自分の変化に不安を感じていた母に老人性鬱(うつ)の兆候があるのではと私から医師に説明して、精神科を紹介してもらいました。並行して、私から地域包括支援センターに電話で相談を開始。その後、実際に両親を見てもらうのが一番だと思い、「無料でいろいろ相談できるところがあるよ」と言って、一緒に地域包括支援センターを訪問しました。

 要介護申請は時間がかかるから、使うかどうかはともかく、先に申請したほうがいいとアドバイスをもらい、渋る父を説得して9月に申請にこぎ着けました。11月に要介護1の認定が下り、今もお世話になっているケアマネジャー(以下、ケアマネ)を決めました。が、当時はまだ介護サービスの導入に父が消極的であり、ケアマネさんとの対話に留まっていました。

 ところが、今度は12月に父の大腸がんが見つかり、入院・手術することに。その間一人になる母を、私が仕事を休んで実家で見ることも難しく、母をどこかに預ける必要が出てきたのです。

 ショートステイの施設を見学に行ったものの、父が受けた印象はよくなかったようで、結局、叔父夫婦が両親の家に1カ月住み込んで母の面倒をみてくれて、私も職場から実家に通うことで乗り切りました。叔父夫婦には本当に感謝しています。

 2020年1月に父が退院。入院で父の体力も落ちている今が、介護サービスを導入するチャンスだと思いました。父一人では世話をしきれない。頼れるのは一人娘の私だけ。娘には迷惑をかけたくない。そんな父の思いもある意味利用して、3月ごろから介護サービスを利用し始めました。

 今はデイサービスを週2回、訪問看護をリハビリマッサージ込みで週2回、水曜と土日は何もない日としています。父に何かあったときのために父母が離れて過ごす練習と、父の休息を兼ねて、月に1回か2回はショートステイを利用します。