女性活躍推進やD&I(ダイバーシティ&インクルージョン)は、もはや企業の努力目標ではありません。持続的な成長のための必須要件になりました。そこで、多様性のある組織づくりを積極的に進める企業のトップ、ジェンダーギャップの解消につながる施策を打ち出す投資家に、今の思いを聞きました。彼らは「女性にげたを履かせているのでは?」という批判にどう答えるのでしょうか。

 福岡県に本社を置く西部技研は、20年以上にわたり女性活躍を推進してきた産業用機器メーカー。内閣府「平成27年度 女性が輝く先進企業表彰」に選ばれるなど、中小企業の先進事例として知られています。3代目社長の隈扶三郎(くま・ふみお)さんはダイバーシティ経営に力を注ぎ、現在年商120億円超、海外7拠点を有する国際企業に急成長させました。トップダウンで女性活躍推進に取り組んだ理由とその障壁、プラスの変化とは?

先代女性社長の思い継ぎ「女性が長く働ける環境づくり」

編集部(以下、――) 女性活躍推進に力を入れてきた背景を教えてください。

隈扶三郎さん(以下、隈) 西部技研は、九州大学に在籍する研究者でエンジニアだった私の父が創業し、私の母が会計や財務を学び、二人三脚で会社を経営してきました。1997年に父ががんで亡くなり、私の兄たちは別の道に進んでいたので、母がその後5年間社長を務めました。3人の子育てをしながら父とともに経営を担ってきた先代社長は、「女性にも長く会社で活躍してほしい」という強い思いがあったんです。

―― 取り組みを始めた当初は思うように進まなかったそうですね。

 母の社長時代から女性総合職の定期採用を始め、出産・育児の両立支援制度をつくりました。それでも、優秀な女性社員たちは結婚や出産で辞めてしまう。当時は社内結婚で辞める事例も多く、それを聞いた母は「なぜ夫ではなく、必ず妻が辞めるの?」と憤りを感じていたほどです。それが2000年ごろのことで、私が女性活躍推進を真剣に考え始めたきっかけです。

―― それから約20年後の2019年には、“生え抜き”の女性取締役が誕生。会社の成長とともに女性社員・管理職数が増え、2015年に5.9%だった女性管理職比率は、2022年2月現在9.2%まで上がっています。どのような歩みを?

 2002年に私が社長となり、2007年ごろからはキャリアアップ制度などハード面の整備に加えて、時間外労働の削減や成果主義の導入、研修、悩みを相談しやすい環境づくりといったソフト面の充実にも力を入れました。「女性活躍推進に一生懸命取り組むと、経営にも大きなプラスになる」と考えたからです。その理由は3つあります。

西部技研 代表取締役社長 隈扶三郎さん
西部技研 代表取締役社長 隈扶三郎さん
1964年生まれ。1987年西部技研入社、2002年から現職。2010年福岡県男女共同参画表彰(企業賞)受賞。内閣府「平成27年度 女性が輝く先進企業」(内閣府特命担当大臣表彰)受賞。内閣府「輝く女性の活躍を加速する男性リーダーの会」メンバー。経済産業省「ダイバーシティ経営企業100選(平成26年度)」選定。現在米国、中国、スウェーデンなど海外に7拠点を持つ
隈扶三郎さんの金言 「優秀な女性を 自社で育てられないのは、 多大な機会損失」