女性活躍推進やD&I(ダイバーシティ&インクルージョン)は、もはや企業の努力目標ではありません。持続的な成長のための必須要件になりました。そこで、多様性のある組織づくりを積極的に進める企業のトップ、ジェンダーギャップの解消につながる施策を打ち出す投資家に、今の思いを聞きました。彼らは「女性にげたを履かせているのでは?」という批判にどう答えるのでしょうか。

ダイバーシティとは程遠い考え方だった

編集部(以下、略) 佐俣さんが代表パートナーを務めるベンチャーキャピタル(成長性が見込める未上場企業に対して出資を行う投資会社、以下VC)「ANRI(アンリ)」は、4号ファンド(運用額250億円)の投資先企業数のうち2割を、女性が代表を務める会社に投資するという方針を2020年11月に表明しました。その理由は?

佐俣アンリさん(以下、佐俣) 大前提として、僕らはもともと、そんなに褒められた組織じゃないんです。ANRIは2012年にスタートし、しっかりした組織になってきたのはここ3年くらい。僕自身、ダイバーシティ(多様性)とは程遠い「ザ・男子校出身者」みたいな世界から来た上に、若い頃にVC業界に入ったので、「いかにこの業界に合わせていくか」みたいな戦い方しかなかった。当時のANRIの女性起業家への投資比率は、4.0%しかありません。ただ、その後、状況が大きく変わりました(2021年12月時点は約18%/ANRI4号ファンド)。

 きっかけは、2年ほど前。毎回登壇しているイベントに出るか出ないかを話し合っていたときのことです。男性起業家ばかりが何十人も登壇するイベントだったのですが、江原(ANRIのベンチャーキャピタリスト、江原ニーナさん)と、うちの若手メンバーが「ありえない」と怒り出して。このご時世に、男性だけが並んだイベントを平然とリリースするってどうなの、と。

 その時は正直、「江原たちがなんか言ってるな」という程度でした。しかし思い返してみれば、それが僕らのダイバーシティへの旅のはじまりでしたね。勉強会を経て「これはもう数字で示さなきゃいけないな」、となったのが2020年11月ごろです。

 その時点で僕らは既に150社ぐらいに投資していたので、全体の比率をいきなり変えるのは難しい。ただ、4号ファンドからは女性起業家の比率を20%にしていこう、という数値目標を掲げました。

―― 「VCってそういう業界だし」で終わる、もしくは「この先変えていかなきゃね」と言ったまま動かないとなりがちなところを、一気に動くことができた理由は何でしょうか?

ANRI代表パートナー 佐俣アンリさん
ANRI代表パートナー 佐俣アンリさん
1984年生まれ。2012年に独立系ベンチャーキャピタルANRIを設立