新型コロナ禍は感染拡大の第6波に突入し、私たちは長期間にわたってストレスを受け続けています。自分自身や、部下や家族が出している「うつのサイン」をどのように見つけて対処したらいいのでしょうか。職場のうつ、更年期特有のうつ、介護でのうつ、さらに、うつを体験した人の声などを取材してお届けします。

 家族の介護を一生懸命頑張って、気づかないうちにうつになってしまうというケース、少なくないようです。どのように追い詰められていくのか、どう対処すればいいのか、自身も40年以上介護を続けてきたという介護者メンタルケア協会代表の橋中今日子さんに話を聞きました。

橋中今日子
橋中今日子 はしなか・きょうこ/介護者メンタルケア協会代表。理学療法士、公認心理士。認知症の祖母、重度身体障害の母、知的障害の弟の3人を介護しながら、リハビリの専門家として14年間病院に勤務。著書『がんばらない介護』(ダイヤモンド社)。介護の心が軽くなる無料メルマガ「介護に疲れたとき、心が軽くなるヒント」を配信中。

日常に追われ、自分に向き合う余裕もなく追い詰められる

編集部(以下、略) 橋中さんは介護者のメンタルケアをされていますが、ご自身もヤングケアラーだったそうですね。

橋中今日子さん(以下、橋中) はい、母が知的障害を持つ弟の療育と親戚とのあつれきで心を病んでしまったんです。中学生の頃には父が進行性のがんを患い、母はうつからアルコール依存症になりました。母が父の看病を頑張り、父の病状が落ち着くと今度は母が調子を崩すという具合で、常に誰かが調子が悪い。私が大学を出る前に父が亡くなり、その後は母と高齢の祖母と弟を1人でサポートしてきました。

 2016年に母をみとり、2019年に祖母をみとり、今は弟の生活を手助けしながら一緒に暮らしています。物心ついてからずっと介護を続けてきたというわけです。

―― それは大変ですね! 介護うつも経験されたのですか?

橋中 はい。ただ、介護者の多くがそうだと思いますが、私も病院に行ってうつの診断を受けたり治療を受けたりしなかったので、抑うつ傾向の状態を経験したとしか言いようがないのですが……。介護をしていると日々トラブルが多すぎて、病院に行く余裕がない。自分の状態に向き合う余裕もなく追い詰められていくのです。

 最初に「私ダメだ、おかしくなっている」と思ったのは理学療法士として働き始めてから、母が寝たきりで祖母が認知症になり、家事と仕事と介護をやっていた頃でした。介護の負担が重い状況が1年くらい続いた頃、母を怒鳴ることが増えていました。母は要介護5で身体障害者。四肢にまひがある状態で、自分で身の回りのことをするのは無理なのですが、そんな母に「なんでこんなこともできないの」と、私は怒鳴り続けていたんです。

 あるとき、皆を寝かせたあとに、気づいたら私は壁に頭をゴンゴンと打ち付けていました。はっと気づいて「ヤバい!」と思いました。

 綱渡りのように家事と介護をして職場に行くのですが、遅刻が増えていきます。朝から誰かが熱を出したり祖母が転んだりというトラブルも原因でしたが、私のパフォーマンス自体が下がっていました。結果、「働き方の悪い職員」になっていったんです。ついに上司から「これ以上続くなら皆に迷惑がかかるから辞めてくれ」と言われました。