新型コロナ禍は感染拡大の第6波に突入し、私たちは長期間にわたってストレスを受け続けています。自分自身や、部下や家族が出している「うつのサイン」をどのように見つけて対処したらいいのでしょうか。職場のうつ、更年期特有のうつ、介護でのうつ、さらに、うつを体験した人の声などを取材してお届けします。

 近年、企業において健康経営やウェルビーイング(身体的、精神的、社会的に幸福であること)を重視する動きが広がっている中、コロナ禍で従業員の心の健康を守るためにどのような取り組みが行われているのだろうか。大企業と新興企業の事例をそれぞれ紹介する。

疲労ストレス計で「無自覚のストレス」を見える化

 日清食品グループでは、2020年4月に1回目の緊急事態宣言が発令されたことを受けて、即席麺事業に携わる従業員の最大約9割が在宅勤務をすることになった。2016年度から働き方改革に取り組んできた同グループでは、在宅勤務制度やリモートワークのためのIT環境は既に整備。それもあって、5月と6月に実施した在宅勤務者へのアンケートでは、約8割の従業員が「会社と従業員のどちらにもメリットがある」「心身への負担が軽減され業務が効率的になった」と、テレワークをポジティブに受け止めていた。

 しかしその一方で、「仕事とプライベートの境目が曖昧」「コミュニケーションが取りづらい」といった、さまざまなストレス要因が生じていることも浮き彫りに。そこで、「先手のアプローチ」を実施するために2020年8月、「テレワークうつ 予防チーム」を発足させた。

 初めに取り組んだのが、「無自覚のストレス」を抱えた従業員を確認すること。村田製作所の「疲労ストレス計 MF100」を在宅勤務者に配布。「自律神経機能の偏差値」と「交感神経と副交感神経のバランス」を、1人4回計測してもらった(対象は、日清食品HDおよび日清食品ブランドの事業会社に在籍する、個人情報の取り扱いに同意した約1360人)。「脳が疲労すると自律神経機能が低下するため、『自律神経機能偏差値が低い状態=脳が疲労している』と推測できる。測定値と本人が感じている疲労感とのかい離などを発見できる」(同社)

 測定の結果は本人がスマートフォンなどにダウンロードした専用アプリで即時確認できるほか、テレワークうつ 予防チームで共有。注意が必要と判断された約2割の従業員に対しては、自律神経に関する基礎知識やセルフケアの方法を身に付けてもらうための資料を提供したほか、産業保健看護職とのオンライン面談を実施した。

 こうした施策に対し、実施後のアンケートでは従業員の約75%が「見えないストレスを可視化できた」「自分でストレスの原因を考えるようになった」など肯定的に評価。管理職層からも「1on1を積極的に実施するようになった」「メンバーが孤独感を覚えていないか意識するようになった」などの声があり、マネジメントの質の向上にも寄与しているという。

 2021年には日清食品ブランド以外の事業会社でも同様の取り組みを実施。今後、2回目の測定も計画しているという。「日清食品グループでは健康経営を戦略的に推進していて、コンセプトは『おせっかいな予防』。すべての従業員が、自らの心身の調子と仕事のパフォーマンスレベルの連動を意識して行動する状態を目指している」(同社)

企業のメンタルヘルス対策は、本格的な不調に至る手前でいかに予防するかが鍵。次のページからは、サイボウズの取り組みを紹介する
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