新型コロナ禍のために家で過ごす時間が増え、ほとんどの人が運動不足を実感しているでしょう。「食べる量を減らして調整しているから大丈夫」というあなた、実は筋肉量が減っている可能性があります。ボディーラインが崩れるだけでなく健康面でも心配な「危険な筋肉不足」、今すぐなんとかしましょう。

 コロナ禍で自分のマスク顔にいつの間にか慣れてしまい、マスクを外したときに鏡に映る口角の下がり具合にハッとした経験がある方も多いのではないでしょうか。口角の下がりは、心身の機能低下にまでつながりかねない口周りの衰えの黄信号。口腔(こうくう)の筋肉低下によるリスクとその予防法を、東京歯科大学教授の上田貴之さんに聞きました。

将来の要介護リスクが2.4倍になるオーラルフレイル

 コロナ禍でリモートワークが増え、人と話す機会が減ったと感じている人も多いことだろう。口を動かさなければ、ほかの部位と同様、自然と筋肉が衰える。口角が下がるのは、単に見た目の問題だけでない。「口の筋肉の衰え=オーラルフレイルは、医学的にも注意すべき兆候です」と上田さん。

 フレイルとは、加齢とともに心身の活力(筋力、認知機能、社会とのつながりなど)が低下した状態を指す。健康と要介護の間にあり、まだ、さまざまな機能を取り戻せる段階のことだ。そのうち、口腔内、舌や喉、顎などの筋力の衰えが「オーラルフレイル」。

 具体的には、滑舌が悪くなる、食べこぼしをする、かめない食品が増える、むせるなどの症状を伴うオーラルフレイルが起きると、全身のフレイルにつながる。なぜなら、口の筋肉が衰えると、硬いものがかめないから柔らかいものを好んで食べるようになる。すると、さらにかむ機能が低下して、筋肉が衰える結果、口腔機能が低下し、低栄養になり心身の機能が低下して、さまざまな疾患リスクが高まるわけだ。

オーラルフレイルが全身のフレイルを招く
オーラルフレイルが全身のフレイルを招く
出典/日本歯科医師会『歯科診療所におけるオーラルフレイル対応マニュアル 2019 年版』

 「東京大学の研究チームによる、高齢者を対象にオーラルフレイルが見られる人と口腔健常者を比べた4年間の追跡調査によると、オーラルフレイルの人は、身体的フレイルになる割合が2.4倍、要介護認定が2.4倍、総死亡リスクは2.1倍というデータが得られました」

 こう聞いても、多くの人は「まだ自分とは関係ない」と思うかもしれない。しかし、上田さんはこう続ける。

 「年齢別の口腔機能低下症の罹患(りかん)率を調べた別の調査では、40代では3割以上、50代では約半数が何らかの口腔機能低下に該当していました」

 将来要介護リスクが高まるオーラルフレイルは、すでに40~50代から始まっているのだ。

いくつ当てはまる? コロナ禍のオーラルフレイルリスク

 特にこのコロナ禍は、オーラルフレイルのリスクが高まる環境ともいえる。例えば、次のような生活に思い当たる人は要注意だ。

1)リモートワークで人と話すことが減った。
2)食事はパソコンやスマホを見ながら、ひとりで済ませることが多い。
3)マスクの下で、気が付くと口を開けていることがある。
4)マスク生活や自粛生活でストレスを感じる。

 一つひとつについて、何が起きるのかを次ページで詳しく説明しよう。