「サードプレイス」という言葉を耳にする機会がにわかに増えてきました。家庭でも職場でもない、心地よい「第3の場所」。ARIA世代にとって、どんなサードプレイスを持つことが理想的なのでしょうか。サードプレイスを持つことで、人生はどう変わっていくのでしょうか。人生を輝かせるサードプレイスの見つけ方、そして見つけた人の実例を紹介します。

サードプレイスを主催すると…

 前回、「昼スナックひきだし」の紫乃ママの話にあったのは、サードプレイスという「場を主催する」ことのメリット。紫乃ママいわく、「50歳を過ぎたら、みんな昼スナのママになろうよ」。そんな紫乃ママの呼びかけに呼応するかのように、本業を持つ傍ら、スナックのママとしてサードプレイスを運営する女性が続々誕生しています。

 看護師の傍ら「ナースナ」と名付けたスナックのカウンターに立つ女性、キャリアコンサルタント業務の傍らママ業にいそしむ女性……肩書を外したスナックの空間では、思いもよらない出会いやつながりが生まれ、さまざまな化学反応が起きているといいます。続々誕生するARIA世代のスナックママのうち、今回お話を聞いたのは、麻布十番で夕方スナック(略して夕スナ)「Barやなぎ」を運営する柳沢祐子ママ。花王で39年間働き、2年前に定年退職。再雇用されて週4日働きながら、「Barやなぎ」というサードプレイスを運営するに至った経緯と、その効用について聞きました。

「Barやなぎ」は、月に1度、土曜日の夕方にオープンしている。柳沢さんえりすぐりの4種の日本酒を用意してお客さんを待っている
「Barやなぎ」は、月に1度、土曜日の夕方にオープンしている。柳沢さんえりすぐりの4種の日本酒を用意してお客さんを待っている

還暦祝いでもらった「のれん」

―― なぜ、スナックのママになろうと思ったのですか。

柳沢祐子さん(以下、敬称略) 10年くらい前から、自宅で「やなパ」と名付けたホームパーティーをよく開いていました。といっても、私が手の込んだ料理を作っておもてなしするわけではなく、毎回テーマを決めて参加者がお酒と食材を持ち寄り、食べて飲むというただの飲んべえの会です。私の家に集って楽しんでくれることがうれしいのと、この場がいろんな人の居場所になればいいなという思い、そして何より自分の楽しい居場所になっていました。

 「いつかどこかでお店を持って『やなパ』ができるといいよね」という妄想を、いろんなところで話していたのですが、その思いが一層強くなったのは、還暦を迎えた2018年。友人からお祝いとして「Barやなぎ」と書かれたのれんと杉玉をもらって。先にお店にかけるのれんができてしまった、と(笑)。

 そもそも私の本業は、会社員。短大卒業後に花王に入社し、定年までの39年間勤めました。研究所、美容部員、美容部員の研修などを経て51歳で人財開発部門に異動となり、キャリアカウンセラー、キャリアセミナーの事務局などを担当。このまま花王を卒業するかと思いきや、57歳でシニア職務開発担当となり、社内のミドルシニアの活躍の場の拡大とキャリアサポートを担当しました。

 実は、「Bar やなぎ」実現に向けて動き出した大きなきっかけは、紫乃ママとの出会いでした。