「サードプレイス」という言葉を耳にする機会がにわかに増えてきました。家庭でも職場でもない、心地よい「第3の場所」。ARIA世代にとって、どんなサードプレイスを持つことが理想的なのでしょうか。サードプレイスを持つことで、人生はどう変わっていくのでしょうか。人生を輝かせるサードプレイスの見つけ方、そして見つけた人の実例を紹介します。

 日経ARIA創刊時から続く人気連載「昼スナックママに人生相談」の紫乃ママがサードプレイス論争に殴り込み! 企業研修や中高年のメンタリングをなりわいとするかたわら、週に一度「昼スナック」というサードプレイスを運営し、カウンターに立つ紫乃ママ。これまで連載に登場した相談者の人生を見事に変え(相談が終わると、みんな霧が晴れたような表情に!)、今や「開運スナックのママ」という異名を持つ紫乃ママのサードプレイスに対する考え方、そしてARIA世代が持つべき「3つの場」とは?

「サードプレイス」って意識高い系の言葉よね

―― SNSなどで家庭や職場以外での活動が充実している人たちの投稿を目にするにつけ、「サードプレイスがない私ってもしかしてさみしい?」「人生損してる?」と思う人が増えているようです。まず紫乃ママに聞きたいのですが、そもそも、ARIA世代にサードプレイスって必要なんでしょうか?

紫乃ママ 「サードプレイス」ってカタカナにした段階で、既に「意識高い系」な雰囲気が漂うよね。あんまり好きじゃない。でも、私はPTAだってマンションの管理組合だって習い事だって立派なサードプレイスだと思うよ。

 習い事といえば、「習い事をする」が趣味の私は、自慢じゃないけどこれまで50種類くらいの習い事をやってきた。お花、お茶、フラメンコ、フラダンスあたりの女性が手を出しがちな習い事は当然のこと、朗読、ジャズボーカル、合気柔術まで。ぜーんぶ経験済み。でもって、見事に全部続いてない。本当、男も仕事も、おまけに習い事も飽きっぽい、あはは。

 ここ2年くらいは中国の楽器・二胡(にこ)を習ってて20万円もする楽器をうっかり買っちゃった。でも、素人なのに全然練習しないからちっとも上達しなかった。だから、信じられないと思うけど、二胡教室ではすごーくおとなしいキャラだったの。「木下さん(紫乃ママの名字)て物静かな方よね」って言われていたほど。

週1日、昼間だけオープンする桃源郷のような「昼スナックひきだし」。平日昼間だけの営業にも関わらず、紫乃ママ会いたさに来店する客が多数!
週1日、昼間だけオープンする桃源郷のような「昼スナックひきだし」。平日昼間だけの営業にも関わらず、紫乃ママ会いたさに来店する客が多数!

―― 口から先に生まれてきたような(失礼)紫乃ママが「物静かな人」って……。詐欺みたいですね!

紫乃ママ ほんとそう(笑)。でもある日、教室のみんなとLINEで連絡先を交換することになって。私のアイコン写真の名前が「紫乃ママ」、コメントが「スナックひきだし開店中」ってのを見られて。そしたら「え? 木下さん……もしかしてスナックやっていらっしゃるのかしら」ってどよめきが走って。「いや、あの、ちょっと、はい……」ってこっちもしどろもどろ。新参者でド下手なのに、練習する時間も取れなかったので、結局やめちゃった。多分みんなには「練習についていけなくてやめた、物静かな謎の中年スナックママ」だと思われてたと思う。

 えっと、何が言いたいかと言うと、そうやって家庭や仕事での自分と全く違うキャラを演じるのも面白いし、そういうことができる場は、既にサードプレイスだと思うのよ。長い人生を考えたときにいくつもの「場」を持っていて、「場によって違う自分」が複数あるといい。本来、人は「いろんな自分」を持っているはず。それを発揮できる場を持つことが大事だと思う。

 人との出会い、異なる領域とのつながりはチャンスの入り口。そこから何が飛び込んでくるか分からない。人間はどんな人でも、いろんな自分を持っているけど、ずっと同じ場所にいると気づかないものなのよね。

自分ダイバーシティの勧め

紫乃ママ 私、企業で「キャリア研修」とかをやるときに「自分の中に多様性を持とう」と言うことがあって。いわば「自分ダイバーシティの勧め」。最近、社会や企業ではよく「ダイバーシティ」って言葉が出てくるけど、たいていは組織の所属員の多様性のことを言っていることが多い。でも、私は、そもそも一人の人間の中にも多面的な要素があると思っているの。自分の多面性を発見することが、これからの自分の可能性を広げることにつながる。だから、居場所を増やすことで自分の中に眠る多面性を知ることができるはず。そう考えると、居場所が一つだけなんてもったいないよね。

 「私は意外にこれが苦手なんだ」「これが得意なんだ」。こういうことは、場所を変えることで発見できる。さっきの二胡の習い事の例のように、キャラだって変えられるんだからいろんな自分にチャレンジできるともいえるよね。

 場所が増えれば増えるほど、自分の役割も変わってくる。この場では教える自分、この場では教えてもらう自分、助ける自分、助けられる自分、創る自分、創られたものを売る自分……。こういう自分の再発見は、複数の居場所がないとしづらい。職場だけだと役割が固定されてつまらないじゃない。

 ちなみに私は、意識高い系じゃないほうのサードプレイスに関しては(笑)、「3つの場所に分類」して考えることをお勧めしているの。

―― 「意識普通系」の3つの場所の考え方、知りたいです!

詳細は次ページ以降で解説します
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