ビジネスパーソンがリベラルアーツを学ぶ重要性が注目されています。変化のスピードが速く、社会が抱える課題が複雑化する中で、教養を深める意義とは? そのヒントが、米国・マサチューセッツ工科大学の音楽の授業にありました。ノーベル賞受賞者を多数輩出している工学・科学の名門である同校は必修科目として豊富な音楽科目を展開。音楽を学ぶことで磨かれる、テクノロジー全盛の時代に求められる力について、現地を取材した音楽ジャーナリストの菅野恵理子さんが解説します。

(1)理系の世界的な名門・MITで、なぜ音楽の授業が人気? ←今回はココ
(2)MIT学生はザ・ビートルズや世界の音楽から何を学ぶか
(3)ビジネスパーソンにお薦め 思考の幅を広げる音楽4選

理工系の名門で4割弱の学生が音楽の授業を履修

編集部(以下、略) マサチューセッツ工科大学(MIT)といえば、工学・科学の世界的な名門ですが、理系の大学で音楽教育が充実しているということがまず驚きです。

菅野恵理子さん(以下、菅野) MITで音楽の授業が単位化されたのは、音楽学科が設立された1961年です。以来60年、試行錯誤を重ねる中で現在のカリキュラムが出来上がっていったのだと思います。

 人文学系の教育としては、1930年代に人文学科が創設されて始まります。そのときは英語や歴史、経済、法律、哲学といった幅広い教育の中の1つとして音楽もありました。その後、人文学科は1950年に人文学・社会学学部に改組され、2000年には人文学・芸術・社会科学部と名称が変更。学部の拡張という形で、音楽を含む芸術全般の教育が重視されるようになっていったことが分かります。

 現在、卒業に必要な単位のおよそ4分の1が、人文学・芸術・社会科学部の科目に充てられています。「工学系だから人文学はあまり重視しない」どころか、むしろ力を入れているといえる比重の大きさです。ちなみにMITは、英タイムズ紙が実施する「世界大学ランキング」の2022年版において、「芸術・人文学分野」の第2位を獲得。その充実した内容は、学生たちがMITに入った後で「こんなに人文学系の勉強を本気でするとは思っていなかった」と驚くほどです。

 芸術科目は必修科目の1つとなっているわけですが、中でも音楽科目の履修生はここ10年で50%ほど増加。毎年、全学部生約4000人のうち約1500人が音楽科目を履修しているそうです。

 必修科目として最小限(1科目)履修する学生もいれば、1つの分野を集中して学ぶ専修科目(4科目以上)や、副専攻(6科目)として履修する学生もいます。さらにはダブルメジャーという形で、音楽も主専攻(10科目以上)とし、理工系の専攻と同じ比重で学んでいる学生もいます。

―― それだけ多くの学生たちの興味を引く授業内容、どんなものか気になります。

優秀な科学技術者やエンジニアを多数輩出しているマサチューセッツ工科大学では毎年、4割近い学生が音楽科目を履修しているという
優秀な科学技術者やエンジニアを多数輩出しているマサチューセッツ工科大学では毎年、4割近い学生が音楽科目を履修しているという