人生100年時代、大人の学びから逃げていると仕事人生は全うできない――。そう警告するのは、『働く大人のための「学び」の教科書』の著書もある立教大学経営学部教授の中原淳さんです。今いる組織の中で安住していてはいけないのはなぜか。学びの一歩はいつ、どのように、どう踏み出せばいいのか。最終回となる今回は「越境」の始め方について考えます。

(1)人生100年時代のキャリアには「下山と再登山」が必須
(2)「学び=資格取得」と考えるのはなぜダメか
(3)サードプレイスを見つける「越境」を今すぐ始めよう ←今回はココ

―― 前回は、日本の社会人は「学びのための時間」をつくっていないことをご指摘いただきました。今回はいよいよ「越境学習」について伺います。

中原淳さん(以下、敬称略)私の専門は、職場での企業内教育や組織の育成をどうすべきかを研究することです。10年くらい前から、企業の中で個人が成長し続けるためには、越境して学ぶことが必要だろうと思ってきました。

10年前、外に出て学ぶ人は「変わり者」だった

中原 ただ、10年前に「越境学習」とか「組織開発における越境」と口にしたときは、会社における「ちょっと変わった人」の学習方法だとみなされていました。冗談抜きに本当の話です。企業から外に出て学ぶ人は、社内では少し浮いた人材で、だからこそ外に出ていると思われていたんですね。それが今では状況がかなり変わってきています。今の仕事に飽き足らない人、先が見通せる人ほど、会社の中に「囲われる」のではなく「会社の外」の世界を見て行動している。その変化に驚いています。一般的な企業の管理職ですら、外に出ようと動く時代です。

立教大学経営学部教授の中原淳さんは、10年ほど前から「越境学習」を提唱してきた
立教大学経営学部教授の中原淳さんは、10年ほど前から「越境学習」を提唱してきた

中原 先日、ある企業の人と話しました。誰もが知っている、数十万人規模の大企業で人事部長を務める40代後半の男性です。「自分も越境し始めている」と明かしてくれました。キャリア関係の資格を取るために、土日に勉強をしているのだ、と。将来的に、学生相手のキャリアコンサルティングをしていきたいのだそうです。ちなみに、その企業は兼業・副業OKです。

 一般的な企業の管理職ですら外に出ようと動くことを考えるようになった背景には、いくつかの要因があります。まず、仕事人生が65~70歳に伸びつつあること、また、その長きに至る過程を、一つの会社がその人のキャリアを「丸抱え」してくれなさそうだ、という予感があること。兼業や副業が広まった影響も大きいですね。

 私の関わる領域で言えば、今では、ある企業で人事に関する仕事をしている人が、実は別の企業の人事部門の人だったりする。競合企業でなければ、兼業・副業がOKになってきているんですね。具体的には、ある企業の人材開発の講師が、ほかの企業で研修講師をしていたり、ある企業の組織開発の担当者が、別の企業でチームビルディングをしていたりする。ここ1~2年でそうしたケースが一気に増えたと感じます。

 そして、兼業・副業に関する縛りのゆるい企業に優秀な人材が集まります。今や「優秀だから自社に置いておきたい」と縛り付けようとすると、その人材が抜け出ていってしまう。そんな社会に急速に変貌しています。特に、マーケティング、PR、人事など、高い専門性が求められる職種でそうした傾向が見られるようです。もちろん、すべての領域ではありませんが。

―― でも、先ほどの人事部長はバリバリの現役で仕事も忙しく、今すぐ兼業や副業はできないのでは?と想像しますが、なぜ外に出て学び始めたのでしょうか。