多方面での活躍が目覚ましい書家の木下真理子さんが、日本のパワースポットを訪れる企画。今回は京都の東山区に位置する浄土宗総本山の知恩院を訪ね、また “知る人ぞ知る”隠れスポット にも足をのばした。
「他力本願」という言葉があります。“他力”といえば、現代の捉え方としては、あまり肯定的ではないように思います。しかし、世の中は自分の力だけでなんとかなることのほうが少なく、私の場合、これだという「書」が書けた時がそうですが、物事がうまくいった時に、何か特別な力が働いたと感じます。
とりわけ政情不安、地震や飢餓、疫病などに見舞われた鎌倉時代は、念仏を称えれば阿弥陀如来の本願(誓い)の力、つまり「他力」によって救われるという法然の教え(専修念仏、せんじゅねんぶつ)が、不安に迷う人々の救いとなって、民衆の間に広まりました。
「華頂山・知恩教院大谷寺(かちょうざん ちおんきょういん おおたにでら)」は、その法然が布教を始めた専修念仏の聖地。訪れる人々にそっと寄り添う“慈雨”のようなパワースポットです。
境内のさまざまなお堂や庭を周回していると、知らずしらずのうちに心が安らいできます。
「3つの解脱」を意味する三門で、迷いの世界を抜け出す
地元の人々から「ちよいんさん」あるいは「ちおいんさん」と親しまれ、旅行者にとっても気軽に立ち寄れる知恩院。
そんな知恩院詣でのスタート地点となるのが、神宮通に面した国宝の三門。入母屋造本瓦葺(いりもやづくりほんかわらぶき)で高さ24m、横幅50m、使われている屋根瓦は約7万枚と、日本に現存する木造二重門としては最大級です。
一般的に寺院の門は“山門”と書きますが、知恩院では“三門”。悟りに通じる解脱の三境地を表す「空」「無相」「無願」の名前を冠した3つの門で構成されているので、そのように記すそうです。
観光客で賑わう東山の町と寺の聖域とを分かつ三門をくぐった途端、あたりの空気が変わるのがわかります。