明治や大正、昭和初期に建てられた建造物には、現代の建物とは異なる魅力がある。DJ、モデル、ファッションデザイナーとして多彩な顔を持つMademoiselle YULIA(マドモアゼル・ユリア)が、そんな近代建築をナビゲート。今回は、2018年11月にオープンした話題の施設「ゆかしの杜」にある、港区立郷土歴史館を訪れた。
内田ゴシックの特徴が詰まった、旧公衆衛生院
白金台駅からほど近く、目黒通りから入った場所にある港区立郷土歴史館は、昭和13(1938)年に建設された旧公衆衛生院を保存・改修し、平成30(2018)年に複合施設「ゆかしの杜」の中にオープン。重厚な建物は、東京大学の本郷キャンパス内大講堂(安田講堂)設計でも知られる内田祥三(うちだ・よしかず)によるもの。「内田ゴシック」と呼ばれる特徴的なデザインで、隣に立つ東京大学医科学研究所(同じく内田設計)と対になっている。
「ずっと港区に住んでいますが、家の近くにこんな立派な建物があるなんて知らなかったです」とユリアさん。昨年のオープン以来、建築好きの間では話題となっている郷土歴史館を探訪する。
戦前は周辺で一番高い建物だった同館の特徴は、昭和初期に流行したスクラッチタイルと、鉄筋コンクリートを使用しているということ。前者は合理性から、後者は内田が鉄筋コンクリート構造学の研究に従事していたという点もあるが、日本が世界に追いつき始めた時期とも重なる。工学系の建築家として知られた彼は、安心・安全・効率的というモットーのもとに学校建築を多く手がけており、その作風は、19世紀後半にハーバード大学などを中心に主流となったカレッジ・ゴシック様式を基調としている。