男性社会の中で働く女性のさまざまな生きづらさを発信してきたARIA。ふと見ると、「男らしさ」を求められてきた男性たちもモヤモヤを抱えている様子。その正体は何なのでしょうか。この連載では、男性学の研究者、田中俊之さんに男性ゆえに生まれる生きづらさや葛藤の原因をひもといてもらいます。今回のテーマは「男性へのルッキズム(見た目至上主義)」です。

メイクや脱毛をする男性が増えてきた

 日本で「普通」に暮らしていると、知らず知らずのうちに男性は「男らしく」、女性は「女らしく」といったジェンダーの刷り込みがあります。メイクや服装といった「見た目」に関する事象もジェンダーが固定されてきたことの1つ。「化粧は女の身だしなみだ」と言われたり、男性が身ぎれいにすると「男らしくない」と言われたり。さまざまなジェンダーバイアスが存在しています。

 それでも、最近は男性タレントがメイクしたり、男性向けのメイク用品が発売されたり、男性でも脱毛する人が増えたり、男性の「見た目」にまつわる価値観が変わってきたように感じます。固定されたジェンダー観が変化し、許容されるようになってきた。新しい選択肢が生まれたのであれは喜ばしいことだと思います。

 個人的な体験として、今年の夏、日傘を差してみました。きっかけは本当に日傘を差さないといられないぐらい暑かったからですが、日傘というアイテムも、「女性が使うもの」といったステレオタイプがあると思います。男性学を研究する自分自身にもそういうバイアスがあるのか。試してみる意味合いもありました。日傘を差してみて最初は少し恥ずかしかったのですが、日差しが遮られるだけで、こんなに涼しくなるのかという気づきがありました。日傘を差すことで「男らしさ」という呪縛から1つ解き放たれたという高揚感もあった。そして、日傘はとても実用的に暑さを和らげるアイテムで、男女問わずお勧めしたいと思いました。

 その一方で、気になるのは男性の見た目に対する自己認識の変化です。メイクや脱毛、スキンケアといったことを、新たな自己表現の1つとして肯定的に捉えているのか、それとも「このぐらいしなくては嫌われる」と義務的に考えているのか。男性の場合は今、それが過渡期にあるように思います。