自分に何ができるのか…見つめ直した
現在私たちが直面しているコロナ禍でもそうですが、大きな災害や困難に直面すると、「自分に一体何ができるのか」と改めて問い直すきっかけになります。建築士のいしまるあきこさんは、震災を機にリフォームの設計、なかでもDIYでセルフリノベーションをする活動に力を入れるようになりました。岩手県出身の安保道子さんは故郷のために何かしたいという思いが募り、大学院で学び、25年勤めた東京の会社をやめてUターン就職します。同じく岩手県出身の高橋博之さんは、東日本大震災の被災地で漁師とボランティアがよい関係性を築くのを目の当たりにし、地方の生産者と都市部の消費者を直接結びつける仕組み作りに奔走、現在は産直アプリ「ポケットマルシェ」を大きく育てています。
もともと私は古いものが好きで、新しく建てることよりも、今ある建物を活用することに興味がありました。(中略)東日本大震災を境に、もっと誰でも住まいを自ら直して、DIYをできるようになったほうがいいと思うようになったんです。図面だけ描けてもいざというときにつくれなければ生きていけない。自分なりに住まいをDIYするセルフリノベーションの活動に力を入れるようになりました。
いしまるあきこ(一級建築士)
(知人や友人の安否が分かるまではつらい日が続いた。今でもあの当時のことを振り返ると涙が出てくるという。甚大な被害にぼうぜんとなって打ちのめされ、故郷のために何かしたいという思いが自然に募った。)
なぜか当時の職場には地方出身者が少なく、つらい気持ちを分かち合えず孤立を感じました。だから岩手県でのボランティアや東北の復興支援の勉強会などとにかく積極的に参加しましたね。また、このもやもやした気持ちを整理したくて、思い切って大学院にも通いました。
安保道子(岩手県北バス 人事担当マネジャー)
消費者と生産者、食べる人と作る人がもっとつながれば、いろんな困難や課題が解決できるのではないかと考えました。きっかけは、東日本大震災の被災地で漁師とボランティアが出会い、共に復興作業に携わる中で互いに感謝し合う関係になっていたのを目の当たりにしたことです。生産者の顔が見えて、その食材がどれだけ手数をかけて作られているかという「物語」が分かれば、もうちょっと適正な価格で買おうという人も増えてくるはず。丹精込めて作られた食材と向き合って、少し時間をかけて料理して、食卓を囲んで家族と会話する時間も増えるのではないか。
高橋博之(ポケットマルシェ 代表取締役CEO)
構成・文/大屋奈緒子(日経ARIA編集長)