誰かのために…と動いた

 震災の被害が甚大だった地域から離れたところにいた人の中にも、マスメディアやSNSなどで伝えられる情報を目にし、自分にできることを探したり、現地へ出向いてボランティア活動をしたりた人が多くいました。女優の渡辺えりさんはすぐに単身福島へ。女優の秋吉久美子さんは、福島の学校の卒業式でスピーチしました。英国に滞在していたバレエダンサーの吉田都さんは、支援金を集めるためのチャリティー公演を、思い立ってからわずか3日間で実現させました。

(東日本大震災が起きたときには、すぐに単身福島へ。実情を伝えるため、現地の人にカメラで撮ってもらい、民放で流してもらおうと試みたが、実現しなかったという。「早く助けなきゃ」という思いから起こした行動だった。)
なんの罪もない人が被害に遭うのを、手をこまねいて見ていられます? できませんよね。だから私は行動するんです。「弱者が生きやすい社会をつくる」というのも、演劇が担う大切な役割だと思うので。そうでなければ、演劇は必要ない、と言っても過言ではありません。


渡辺えり(劇作家/演出家/女優)

渡辺えり 弱者が生きやすい社会をつくるのも演劇の役割


自分で言うのもナンですが、私、よくも悪くも感受性が強いんですね。表舞台に立つときは気丈に笑顔を見せなくちゃいけないのに、震災から間もないうちは、泣きそうになることがありました。例えば、地元・福島の友人に頼まれて、ある学校の卒業式でスピーチをしたとき。「キミが来てくれたら、子どもも大人もみんな喜ぶから」と言われても、心が痛み、なんとスピーチすればよいのか……。そういうときに芦田先生のことを思い出して、先生の服をまとうと、心と体がシャンとしたんです。


秋吉久美子(女優)

秋吉久美子 震災後に力をくれた芦田淳の自伝的エッセー


何もできない自分に歯がゆく思いながら、「とにかく今の自分にできることを」とロイヤル・オペラ・ハウスに相談し、東日本大震災への支援金を集めるチャリティー公演を行いました。思いたってから公演まで3日間しかなかったのですが、誰ひとり嫌な顔をせず、演目の決定、振付家への許可、音楽、照明、チケット販売……と準備を手伝ってくれ、チケットは即日完売となりました。人の気持ちの温かさ、英国のチャリティー精神の高さが心に染みた数日間でした。


吉田都(新国立劇場芸術監督)

妹たちへ 吉田都 尽きぬ情熱、新しい目標へ1つずつ