すべての出来事は、その先につながる「いいこと」

 でも、奄美大島には、『2つ目の窓』で(松田)美由紀さんが演じていたユタ神様というシャーマン(霊媒師)がいる。民間信仰が根付く奄美の不思議な土地柄のせいか、「物事は起こるべくして起こっていて、(悪いことでも)未来に向けてよりよい方向に行っていると思えばいい」、という考えにたどり着いた。結果、『2つ目の窓』は自分にとって最高傑作となりました。

―― 悲しみも苦しみも、その先のためにある、と気づいたということ?

河瀬 そうです。奄美大島の地で、ふとそれが納得できた。

 今、私はこんなふうにいろいろなしんどいことがあるけれど、ま、いっか、きっとこの次に何かがやって来るんだ、と。人生は悪いことといいことがあるのでなく、自分にとって嫌だなと思うことも、すべてはその先につながっている「いいこと」なんだ、と。これまでとは全く違う考え方に行き着いたのは、奄美大島という場所の土地柄や暮らす人たちの哲学に触れたから。44歳のときです。

両親に捨てられた――作品に色濃く表れる生い立ち

―― 河瀬さんの作品には、そうした自身の内面や出自が描かれることが多いですね。初期の作品は、両親に捨てられ、養父と養母に育てられた河瀬さんの出自がベースになっていました。

河瀬 母は妊娠中に父と別れ、両親と生き別れた私は伯母夫婦に育てられました。私は、母は見たことはあっても、父は見たことがないんです。