2007年に『殯(もがり)の森』でカンヌ国際映画祭グランプリを受賞するなど、世界的に高い評価を受ける映画監督の河瀬直美さん。昨年は東京2020オリンピック大会公式映画の監督に就任したことも話題になりました。「正しい生き方なんてない」と話す河瀬さんは今年50歳。まさに人生の中央地点に立つARIA世代の河瀬さんが、同世代に送るメッセージとは。連載第4回は、男社会の壁をどう乗り越えたか、監督としてスタッフをどう率いるかについて語ってくれました。

監督として、トップに立つことの心構えとは?

―― 日経ARIA世代には管理職の女性も多いですが、「監督」というトップに立つ指揮官として、壁にぶつかったことはありますか?

河瀬直美さん(以下、河瀬) 壁はね、もうたくさんありましたよ。カンヌ国際映画祭で新人監督賞をとった『萌の朱雀』(97年)の撮影中はよくけんかもしました。深い山間の森で撮影をしている分、逃げ場がなく、もめて辞めると言い出すスタッフもいました。

 でも、ぶつかるのは20代でやめました。今、私はぐっと引いて、逆にスタッフを前に出してそれぞれの役割を光らせるようにしています。だから、現場では「あれ、監督どこにいるんやろ」というくらい。それくらい一歩引いて俯瞰(ふかん)に見ると、滞っている部分が見えてくる。どうすればあの滞りがスムーズに流れるんだろう? 人をあてがうか? どこかを変える? そんなふうに、対立するのでなく、ちょっと引いてどうすればいいのかを考える。今はそんなスタンスで動いています。

故郷の奈良を拠点に活動する河瀬さん。プライベートでは、中学3年生の息子を育てる母親

―― スタッフとの信頼関係があるからできることですね。

河瀬 そうです。だからミーティングは綿密にします。まずはスタッフから意見を聞く場を意識的に持ち、すり合わせていきます。もちろん、中には通じ合わない人もいる。そういう人はメインのスタッフには入れられない。やっぱり私と考え方が違うという人がいると、どこかが滞ってしまう。スタッフの調整も大事な作業で、「このカメラマンならこのヘアメイク」といった具合にちゃんと配置をします。