これからも自分の中を「形」にしたい

―― この先、何かやり遂げたいということはありますか。

河瀬 私はやっぱり自分の中身を「形」にしたい。これはずっと変わりません。あとは、人とつながりたい。これは私の出自が大きく影響していると思います。母は私を妊娠中に父と別れ、私は年老いた伯母夫婦に養女として育てられました。両親に捨てられたような感覚と、一番近しい人と一緒にいられなかったという感覚が私の中に根強くあります。誰かに必要としてもらいたいとか、自分の役割を見いだしたいというときには、自分の中で大事に持っているものをもっともっと知ってもらいたい、と願います。それが映画になれば、世界を巡り、海を越えて地球の裏側の人々ともその感覚を共有することができます。

―― もっと国境を越えて、人とつながりたいということですね。

河瀬 ただ、言語の問題や文化の違いはなかなか乗り越えられない。日本人にとって、そのハードルは高い。実は、そのニュアンスを『Vision』(18年)には入れ込んでいます。ジュリエット・ビノシュ演じるジャンヌがフランス語や英語で永瀬正敏さん演じる智とコミュニケーションを取ろうとするけれど、うまくいかない。でも、そこで何とか形を作って、触れ合っていく。私も言語を超えて、つながり合えるように仕事をやっていきたいな、と。それは世界へ続く茨の道を切り拓いて、道筋を作っている感覚です。道筋がある程度あれば、次世代の人は世界を舞台にもっと作品に関わることに意識を集中できるようになるのではないかと思うんです。

取材・文/若尾礼子 撮影/西岡 潔