世界の最先端を体感できる都市、ニューヨーク。この街に1996年から在住し、ビジネス・コンサルタントとして第一線で活躍する渡邊裕子さんの最新リポートをお届けします。

 ニューヨークで外出禁止令が出たのは3月22日。私は3月初旬から在宅勤務を続け、家から出ない生活は既に1カ月を超えた。「人間、何にでも慣れるものだな」と感じる。この自由を極度に制限された隔離生活に少し慣れてきた気がするし、少なくとも、あと6週間は自宅謹慎状態が続くかもしれないという覚悟もできてきた。

「見えない通り魔」が街中を歩き回っている

 ニューヨークが経験した過去1カ月あまりの死者数大爆発は、ちょっとした爆撃のようだった。今日(4月15日)現在の、新型コロナウイルスによる日本の死者は178人だというが、その数字は、ニューヨーク州の3月23日時点での数字、157人に近い。そこからたった約3週間で、ニューヨークの総死者数は今や1万人を超えるまでになった。2001年の同時多発テロの際のニューヨークでの死者は2753人だったので、約4倍だ。

 イギリスのボリス・ジョンソン首相の「見えない殺人者が歩き回っている」という比喩は、言い得て妙だと思った。今、ニューヨークでは毎日700人ずつ殺していく「見えない通り魔」が歩き回っているようなものだと私も思う。防空壕(ごう)に隠れることもないし、サイレンも鳴らないし、スーパーに行けば何でも手には入るので飢えることはない。しかし、まるで戦争のように、日々静かな爆撃に遭っているような緊迫感がある。いつ自分の上に見えない爆弾が落ちてくるかも分からない。私の周りにも、コロナらしき症状の人たちが出てきている。いつどこでかかってもおかしくない。

ニューヨークの街には行き交う人や車はほとんどない
ニューヨークの街には行き交う人や車はほとんどない

 先週と今週は、ニューヨークにとって一つの大きな峠であると予測されていたので、住民たちは、ホワイトハウスのバークス博士(コロナウイルス対策コーディネーター)の「なるべくスーパーにも行かないように」という言葉に従い、極力おとなしくしている。私もそのつもりで食料を買い込み、この10日ほど買い物に行っていない。

 幸い、ここ2、3日、ニューヨークの病院では新規入院患者の数が減り、退院者数が増えてきた。人工呼吸器につながれる人の数も落ち着いてきた。ただ、日々の死者数はまだ高止まりしており、全く気が抜けない。ニューヨークは、世界で一番人口当たりの検査数が多く、既に50万件近い。今後は大規模な抗体検査も取り入れ、抗体を持つ人から徐々に行動制限を解除するというのがニューヨーク州のアンドリュー・クオモ知事の目指す方針だ。

 今、私たちが目撃している変化のいくつかは、SF小説かホラー映画のような奇妙なものであり、またいくつかは人間性に満ちた話だ。人であれ企業であれ社会であれ、非常時には本性が出る。普段どんな価値観や偏見を持って生きているかが、その行動から透けて見えてしまう。そういう意味では、今、誰が何をしているのかをしっかり見ておくことには意味があるだろう。