激動の金融業界で、持ち前の楽天的な性格を武器に前向きに仕事と向き合い、上司や部下との信頼関係を築いてきたという大和証券グループ本社 取締役 執行役副社長の田代桂子さん。どのように重責を担う力を身に付けてきたのだろう。

(上)大和証券・田代桂子 役員を目指そうとは思ってなかった
(下)大和証券・田代桂子 「女性4人役員に」が会社を変えた ←今回はココ

 「その場に立てば視野は広がるもの」と、軽やかに女性初の副社長という責務への挑戦を語る田代さん。これから後に続く後輩たちに、どんなアドバイスを伝えてくれるのか。

大和証券グループ本社 取締役 執行役副社長 海外担当兼SDGs担当 田代桂子さん
大和証券グループ本社 取締役 執行役副社長 海外担当兼SDGs担当 田代桂子さん

編集部(以下、略) 「役員になって見える世界」を経験した女性は、日本ではまだまだごく少数です。田代さんが役員になってから感じた変化とはどういうものでしたか?

田代桂子さん(以下、田代) やはり視野はぐんと広がりますし、広げないといけない役割だと感じました。自分の担当部署だけ見ていればよかった部長時代よりも広い視野で会社全体について考えないといけませんし、対外的な仕事も増えますので、社会全体に目を向ける意識も求められますね。

 時間軸についてもそう。3年後、5年後よりもさらに先の10年後、20年後まで見据えた経営戦略を考える視点が問われます。広く見渡し、遠くを見通す。ただ、この力は役員になる前から求められるというより、なってから身に付いていくものなので、あまり難しく考えなくて大丈夫。

 立場が変わるだけで自然と視野は変わりますし、何か課題が見えたら「どうしたらより良くなるのか」と人は考えるものですから。役員になってから新たに見える世界を楽しむといいと思います。「役員になること」を目的にしてしまうと、ポジションにしがみつくのに一生懸命になっていい仕事ができないでしょうね。

―― 「いつか役員になってみたい」と目指す女性たちに向けて、特に身に付けておくべき経験や積極的に取りたい行動のアドバイスがあれば教えてください。

田代 社内外のいろいろな人と出会い、つながりを持って、多様な視点を磨くことでしょうか。世の中にはいろいろな人がいて、それぞれが自分とは違うものを持っている。「目の前にいるこの人から、私は何を学べるのか」と受け入れる姿勢が必要になると思います。多様な人たちと力を寄せ合って、同じゴールに向かっていく。「一緒にこっちへ行きましょう」と方角を示し、「一緒に行きたい」と思ってもらえるように導くのがリーダーの仕事ではないでしょうか。

 大事なのは、皆のベクトルの長さではなく方向性を合わせていくこと。人生の事情は人それぞれなので、遠くまでリーチする長いベクトルを持っている人もいれば、「今はそこまで頑張れません」と短めのベクトルを持つ人もいます。でも、それも子育てや介護などの一時的な事情が理由である場合も多く、また時間がたてばベクトルが伸びる可能性がある。逆のパターンもあり得ますよね。会社の制度によってベクトルを長くできることもあるでしょう。

 その時々でその人が無理なく力を発揮できるベクトルの長さを見極めながら、「目指す方向はこっちですよ」と視点を合わせていくことが大切だと感じています。