手の技と身体感覚から生まれる唯一無二の仕事。「手しごと」に魅了されたARIA世代の日常、仕事との出合い、世界観を聞きます。アロマテラピストだった別名幸子さん(41)は、インドで薬効のあるハーブや植物で布を染めるアーユルヴェーダ染めに出合い、その可能性に魅了されます。アーユルヴェーダ染めの魅力を聞きました。

 インドの伝承医学アーユルヴェーダで使われる約1000種類以上の薬草の中から、症状や目的に応じて染液を調合し、昔ながらの方法で、職人たちの手で一枚一枚染め上げるアーユルヴェーダ染め。その布で製品を作り、販売する「いのちのころも」は、別名幸子さんのインド旅行中の出合いから生まれた。しかし、別名さんの薬草との出合いはもっと以前に遡る。

いのちのころも代表、染色家 別名幸子(べつめい・さちこ)さん。首に巻いた「エレファントグレー」のストールは、麻炭、ブラッククミン、ベンバダムなど20種類のハーブで染めたもの
いのちのころも代表、染色家 別名幸子(べつめい・さちこ)さん。首に巻いた「エレファントグレー」のストールは、麻炭、ブラッククミン、ベンバダムなど20種類のハーブで染めたもの

アロマテラピストとしてハーブと出合う

 「以前、アロマテラピストをしていました。その前は幼稚園の先生をしていたんですけれど、日々の激務で心身共に疲れてしまって……。自分のために通っていたアロマテラピーで、手のぬくもりやマッサージに癒やされ、人を癒やす仕事がしたいと勉強をし始めました」

 別名さんは幼稚園を辞め、ホテルのサロンや、産婦人科医院での産前産後のケア、鍼灸(しんきゅう)院で治療と併せてケアをするなどアロマテラピーの経験を積み、30代半ばで独立する。店では西洋アロマを扱っていたが、海外から輸入していたローズウッドの精油が、2010年にワシントン条約の規制のため入手できなくなった。

 「人を癒やすために植物の精油を使ってきたけれど、それでどこかの国の木を伐採して環境を破壊しているなら、これは持続可能なセラピーではないのかもと思ったんです」

 そこで、別名さんは日本で採れる香り、和のハーブについて勉強を始め、岐阜の間伐材や高知県の四万十のショウガや、ユズから生まれるアロマオイルの製造元を訪ねる。その縁がきっかけで、屋久島の精油製造とスパを経営する会社で働き始めた。地杉の間伐材から精油を作る際に出る杉の煮汁を生かした染色を担当し、染色に出合う。

 「そこでは、香り作りは森作りという心地よい循環を肌で学びました。形のきれいな農作物は食品として使われますが、形が悪いものや果汁を絞った後の皮はほとんど捨てられます。捨てるものに光を当て、残さず使い切るという考え方で日本の精油は作られていて、その考え方に共感して国産アロマにはまっていきました」