故郷の文化を身近なものにしたい

 座繰りの技術が上がるとともに、糸を染め、手織りした作品も制作するために、実家に隣接するアトリエを8年前に開設。草木染に使う植物は庭で育てたり、畑や山に取りに行ったりする。「田舎なので、材料には事欠かないですね」

ヤマザクラやアカネなど、身近にある植物から染めた糸
ヤマザクラやアカネなど、身近にある植物から染めた糸

 座繰りの技術を教える講座も始めた。最初はアトリエで二人ずつ、ワークショップという体験型だったが少しずつ人数が増え、現在は高崎駅近くで、「絹を身近に感じられるモノづくり」をコンセプトに、糸づくりから染め、織りまで一連の作業を、一人ひとりの作りたいものに応じて学んでもらっている。繭から糸をつくり、一連の工程で作品ができるまで、ほぼ1年がかり。県外から通う人、仕事や子育ての合間に通ってくる女性もいて「無心に作品に向かっていると、日々の大変なことを忘れて気分転換できるのがいい、と言われます」。

 かつて各家庭で糸をつくり、着るものをつくってきた故郷の文化。「それを知らない世代だからこそ、強い魅力を感じるのだと思います。今後は座繰り糸や絹の可能性をさらに追求して、新しいテキスタイルやインテリア製品など、暮らしに身近なアイテムをつくり続けたいですね」

取材・文/秋山知子(日経ARIA編集部) 写真/都築雅人