糸からテキスタイルをデザインできる新鮮さ

 昔から布が大好きだったという中野さん。布の材料である糸のことまで深く考えたことはなかったが、美しい絹糸を自分でつくれると知ったとき、大きな魅力を感じた。「太さや強弱などを変えると織った布にいろいろな表情が生まれる。糸からテキスタイルをデザインできるというのが新鮮です」

 その人の内面までも投影されるという糸づくり。中野さんの場合は、強く主張する糸をつくろうとしても「どこか優しい感じになる」と言われるそうだ。

 中野さんは主宰するワークショップで座繰りと染織の技術を指導しながら、衣料以外にインテリアやアクセサリーなどにも作品の領域を広げている。2017年には、レクサスが主催した「LEXUS NEW TAKUMI PROJECT」で若手の「匠」51人の一人に選ばれた。出展作品は、糸そのものを巻いて形作ったオブジェ。中にLED光源を入れて間接照明にしたり、アロマディフューザーとして使ったりとインテリア用途を想定している。「身近に置いて日常に楽しんでほしいと思います」

地元で育った繭の糸を、アトリエの近隣で育った植物で染めてつくる作品
地元で育った繭の糸を、アトリエの近隣で育った植物で染めてつくる作品
織物ではなく、糸そのものを表現したオブジェ「SIHAKU -絲帛-」
織物ではなく、糸そのものを表現したオブジェ「SIHAKU -絲帛-」