手の技と身体感覚から生まれる唯一無二の仕事。「手しごと」に魅了されたARIA世代の日常、仕事との出合い、世界観を聞きます。歴史ある日本酒の蔵元に嫁いだ浦里美智子さんは、あるとき味わったできたてのお酒に感動して猛勉強し、杜氏(とうじ)に。自分がおいしいと思える味をひたすら追求するお酒造りに情熱を注いでいます。

 結城紬(つむぎ)の産地として知られる茨城県結城市。この地の蔵元、結城酒造は創業が江戸時代以前にさかのぼる長い歴史を持つ。だが現在の主力商品は、誕生してまだ8年ほどの「結(むすび)ゆい」。杜氏の浦里美智子さん(43歳)が、一から日本酒造りを勉強して造り上げたお酒だ。

 酒蔵の建物は安政年間の建造で、冬場は厳しく冷え込む。11月の終わりから仕込みが始まると、夜中も2時間おきに起きて作業をする日々が約半年間も続く。刻々と変化する発酵の状態は、五感をフルに働かせて把握する。「生き物が相手なので機械だけでは分からないこともあります。温度も自分の手でさわって確認しているので、たまに温度計が壊れていたりしても気づけます」

 週に1回仕込むと、1カ月後にお酒をしぼることができる。それを半年の間、毎週繰り返していく。「半年間は、睡眠もよく取れないし、寒いし、外にはなかなか出られません。仕込みがない夏の間は蔵の清掃や出荷作業をしたり、営業に回ったり。半年ごとに生活スタイルが全く変わります」

 「過酷な仕事ですよね」と言いながらも明るく笑う美智子さん。目をかけ、手をかけて造る「結ゆい」は、華やかな香りとまろやかな味が印象的だ。

結城酒造の浦里美智子さん。9年前に杜氏への道を歩み始めた
結城酒造の浦里美智子さん。9年前に杜氏への道を歩み始めた
「結ゆい」のラベルは地元の書家によるデザイン。「吉」の字を結城紬の糸が取り囲む
「結ゆい」のラベルは地元の書家によるデザイン。「吉」の字を結城紬の糸が取り囲む