手の技と身体感覚から生まれる唯一無二の仕事。「手しごと」を生業に選んだARIA世代の日常、仕事との出合い、世界観を聞いていきます。江戸時代からのものづくりの伝統が生きている東京・蔵前で手作り靴の工房と教室を営む大河なぎささん(39歳)。靴という小さな世界の魅力について教えてもらいました。

 「最初は、習い事の1つとして靴を作り始めたんです」。東京・蔵前で手作り靴と革小物の工房「tokyo toff」を経営する大河なぎささん。独自ブランドの靴を作り始めて10年になる。採寸して型紙を作り、工程によって地元の職人に製造を委託する。工房では革工芸の教室も運営している。

 もともと「靴文化」の元祖である欧米諸国では、習い事として一般の人が靴作りを学ぶような教室はほとんどないそうだ。ところが日本では趣味で靴を作ったり革工芸を楽しんだりする人が多いというのは、考えてみれば不思議なことだ。

「アッパー」と呼ばれる靴の上半分。木型に当てて整形し、靴底を手縫いで付けていく
「アッパー」と呼ばれる靴の上半分。木型に当てて整形し、靴底を手縫いで付けていく
「tokyo toff」代表の大河なぎささん。クリエーティブな若手経営者が集まる蔵前という地域からも刺激を受けているそう
「tokyo toff」代表の大河なぎささん。クリエーティブな若手経営者が集まる蔵前という地域からも刺激を受けているそう

面倒だけどおおらか、すべてを作り込める靴の世界

 多くの人を引き付ける靴作り。大河さんにとっての魅力とは何なのだろうか。

 「自分にとっては、創作対象としての『サイズ感』がちょうど良かったんだと思います」という大河さん。大学入学当初は建築に引かれ、仕事で店舗設計や内装を手掛けたこともあるが、自分の手で作り込んだり修正したりするには大きすぎる対象物だと感じていたという。

 「図面を引いて、立体を作り上げていくところは建築などに似ているんですが、靴は小さな世界。自分の手ですべて作り、やり直すこともできます。製作工程は面倒ではありますが、その面倒さも自分にとっては魅力なんです」

 自然素材の革は伸び縮みするため、きっちり設計の寸法通りに行かないことも多いが「そのおおらかな感じも気に入っています」。履いているうちに足になじんで状態が変化し、傷んだら直して長く使っていく過程にも、他では得がたい魅力があるそうだ。