無駄を出さず、今あるものを生かし切って再生する面白さ

 洋服地と違い、着物地の幅は約37センチ。この狭い幅を生かしながらデザインを考える。どうしても入ることになる縫い目を切り替えのデザインに使ったり、ドレープ感を出すために生地を斜めに使うバイアス仕立てにしたりする。

 「普通の洋服の場合は、広幅の生地の中にパターンを置いていくと、かなりの量の無駄になる部分が出ます。でも着物地の場合は生地幅が狭いので、パターンの中にどう生地を当てていくかという逆の発想で作ることになります。すると、無駄になる部分がすごく少なくなる。わずかに残ったはぎれも、コサージュなどにします」

 アパレルメーカーでパタンナーの仕事をした伊東さんは、パターンから考えることが多い。最近はパソコンCADで作業をすることで「パターンに生地を当てていく作業がとてもやりやすくなり、できることの幅が広がった感じがします」

パターンのチェックをする伊東さん。パソコンCADを導入して作業をさらに効率化した
パターンのチェックをする伊東さん。パソコンCADを導入して作業をさらに効率化した

 着物1着分から作れる洋服はせいぜい1~2着のため、どれもほぼ一点物になる。生地との一期一会の出合いで生まれる着物服の製作を、伊東さんは何となくこれからの自分に託された仕事のように感じるという。

 「昔のようないい素材が手に入らなくなったり、染織の技術が失われていったりして、二度と作れない生地が増えていくと思います。もしかしたらいつか、人間は生地というものすら作れなくなってしまうかもしれない。未来は何が起きるか分からない中で、今あるものを生かして、再生していくことがこれからの自分の使命のようにすら思えますし、面白さと可能性を感じています」

取材・文/秋山知子(日経ARIA編集部) 写真/吉澤咲子

un:tenのサイト