離れて暮らす両親。ちょっとした親の変調を見逃していると、いつの間にか認知症が進み、手遅れになるケースもあります。親がまだ元気な70代のうちに、自分の周りを身ぎれいにする「生前整理」を親に勧めるのが得策です。しかし、両親をその気にさせるには話の進め方がとても大切。葬儀・お墓・介護など終活を取材してきた旦木瑞穂さんがリポートします。

両親と電話だけの関係が続き、変調を見逃す

Bさんは、商社勤務の女性管理職(56歳)。大学進学を機に長野から上京、早朝から深夜まで仕事に打ち込み、管理職まで上りつめた。婚姻歴はあるが、1年ほどで離婚。そのとき両親に「仕事ばかりしているから逃げられるんだ」と責められて以来、距離を置いてきた。84歳になる父と母は今も長野で暮らすが……。

 Bさんは、ときどき母と電話はしていた。いつからか、母からの話で「父が最近怒りっぽくて、手が付けられない」という内容が増えたものの、ただの夫婦げんかだと思い、気にもとめなかった。しばらくすると今度は、「(亡くなったはずの親戚から)旅行の誘いがあったから一緒に行かないか?」といった不可解な内容の連絡も増えたが、それも聞き流していた。

 その後、母から「父がストーブの前で寝てしまい、すねから膝にかけて火傷を負った。1カ月以上入院するかもしれない」と聞かされる。火傷をした父は、薬を塗ろうとせず、抗菌薬も飲まなかったため、化膿(かのう)して感染症を引き起こしたらしい。このとき病院からBさんに「治療の同意書や入院の申込書の記入をお願いしたいから病院に来てもらえないか」と電話があり、数十年ぶりに長野に帰省した。

 そして、Bさんは変わり果てた両親の姿にがくぜんとした。