嫌がる父が、診断士を交えることで前向きに

Aさんはフルタイム勤務のワーキングウーマン(46歳)。夫、大学生の息子、高校生の娘と4人で暮らしている。Aさんの妹(43歳)は小学生の娘2人を育てるシングルマザーだ。両親は父73歳、母70歳。クルマで1時間ほどの丘陵地の住宅街で暮らしている。

 Aさんは、父が1年ほど前に体調を崩したことから、両親に「そろそろ生前整理したら?」と話したことがある。しかし、そのときに父は機嫌が悪くなり、聞く耳を持たなかった。

 そこでAさんは、知り合いの紹介で「生前整理診断士」に相談することを父に提案したところ、「プロの目が入るなら」と納得してくれて、両親とAさん、妹、そして診断士を加えた5人で話し合いの場を持つことになった。

 診断士は、最初に「家族全員で今後の人生を考えて、不安に思うことを書き出し、それをどのように解消するのかを話し合いましょう」と提案。家族で不安な項目を下図のように書き出した。

家族で不安を書き出し、解決策を話し合う。1)介護のこと、2)金銭管理のこと、3)相続のこと、4)祖父母が眠る墓のこと、5)自宅の荷物のこと

 まず介護については、両親とも「娘たちに負担をかけたくない」と思う一方で「最後まで自宅で暮らしたい」と考えていることが分かった。そこで診断士は「介護が必要となったら介護保険を利用しながらできるだけ長く在宅で過ごし、ケアマネジャーから介護施設に入所を勧められた時点で入所を考えては」と提案。全員一致で承諾した。

 2つ目の金銭管理については、父は当初、家の資産状況をつまびらかにすることを渋ったものの、診断士が「もし認知症になったら、後見人を立てないと金融機関から預金を引き出すことが難しくなる」「晩年には第三者が金銭管理をするケースが多い」といった実情を説明したところ明かしてくれた。父名義の預金や国債、株式、不動産で、総資産は約9000万円とのことだった。

 続いて3つ目、相続については、父が先に亡くなり、母だけが相続する場合は配偶者控除があり課税されないことが分かった。さらに母が亡くなり、2人の娘が相続するときには「税理士を入れて相続対策をすること」を診断士が提案した。もし、父が認知症になり、金銭管理が難しくなったときには、Aさんが両親を支援できるように、あらかじめ弁護士に依頼して、任意後見契約書と財産管理契約書をAさんが父母と締結することに。また、公正証書遺言も同時に作成することにした。