離れて暮らす両親。まだまだ元気とはいえ、70代にもなれば、自分の周りを身ぎれいにする「生前整理」を始めてもいい年齢です。しかし、そんな話題を持ち出そうものなら「まだ早い」「縁起でもない」と一蹴されるのが落ち。もめずに、楽しく始めるこつを教えます。葬儀・お墓・介護など終活を取材してきた旦木瑞穂さんがリポートします。

「そのとき」は、突然やってくる

 盆暮れ正月の里帰り。たまの実家で、両親と生前整理の話をしようにも、はぐらかされて、なかなか具体的な話にはなりにくいもの。しかし、「そのとき」は突然やってくる。残された家族は気持ちの整理がつかず、冷静な判断ができなかったり、家族間で意見の違いからもめてトラブルになったりするケースも珍しくない。

 そこで、この連載では、今から始める生前整理の進め方を3回に分けて紹介したい。家族全員が納得のうえ、始めるのがポイントだ。

 生前整理の基本は「物、心、情報」の整理。不要なものを処分する物理的な「物の整理」、あらかじめ本人と家族で話し合っておく「心の整理」、そして複数の葬儀業者から見積もりを取っておくなどといった「情報の整理」だ。これらを押さえておけば、いざという事態が起きても慌てることなく、落ち着いて対応できる。

 中でも、一番手間がかかるのは物の整理。実際に親の葬儀後に困ったことを聞いたアンケートでは、「身の回りのものの処理」を挙げた人が圧倒的に多かった(下図)。遺品整理会社に依頼することも可能だが、2DKで15万円(税別)から作業費がかかる(遺品整理・生前整理会社、リリーフの場合)。親の家の片付けは「親家片(おやかた)」などと呼ばれ、子どもにとって精神的、体力的、そして金銭的に大きな負担になっているのが実情だ。

親の葬儀の後「身の回りのものの処理」で困る人は多い。親の葬儀の後に困ったこと。洋服や家電製品など身の回りのものの処理。銀行や郵便局の口座の預金が凍結された。年金や保険の処理。持ち家の処理。公共料金の契約者変更。契約していた保険が分からない。印鑑や通帳が見つからない。郵便物の処理。免許証やパスポート、会員証の処理。クレジットカードや携帯電話の処理。パソコンやSNS上の写真やデータ。借金。その他。
親の葬儀の後に困ったことを聞いたアンケート調査の結果。銀行の口座や年金、保険を抜いて、最も多かったのは「身の回りのものの処理」だった。グラフは公益社「葬儀・終活に対する意識調査」(2018年2月)を基に作成。45~79歳の男女1000人を対象、有効回答は597件