離れて暮らす親の様子が気になるけれど、仕事やコロナ禍で対面することが難しい今、IT機器を使って実家の様子を見守っている介護エンジニアの福村浩治さん。3回シリーズの最後は、便利なIT機器を実際に役立てるにあたっての親との向き合い方や、直接実家へ足を運ばなくてもすぐに使える状態で設置できる具体的な方法について聞きました。

親に「操作を覚えてもらおう」と考えるのはNG

 前回の記事「『アレクサ、お母さんに呼びかけて』親の見守りの進化形」では、離れた場所にいても親とのコミュニケーションを取りやすくするツールとして、スマートスピーカーやコミュニケーションロボットなどを紹介しました。これらは複雑な操作が要らず、親世代にも使いやすいことが大きな利点ですが、いくら導入しても実際に使わなければ無用の長物。「なじみのない機械」に自分の親は抵抗を感じ、受け入れはしても使ってくれないのでは、といった不安を抱える人もいるでしょう。福村さんは「親に何かをしてもらおうと考えない方がいい」と話します。

 「『この操作を覚えてもらおう』と考えると、その見守りは定着しません。無理やり頑張らせると、親子関係が悪化してしまう可能性もあります」

 福村さんは仕事で介護の事業所などに出向き、新たなシステムや機器を見せることがありますが、そこで働く50~60代の人たちでも、新しいものを使うことに不安や抵抗を感じる人が多いそうです。高齢になった親が新しいことを覚える気にならないのは、当然と考えています。

 「作業はできるだけ子ども側で完結できるようにする。そうすれば、自分の都合やエゴで親にやらせているのでは、と悩むこともありません。もちろん、スマートスピーカーの場合はアレクサ、と声で呼びかけることだけは覚えてもらわないといけないのですが(笑)」

 全体的な傾向として、女性は柔軟にいろいろなことを吸収する力が高い一方、男性には難しい面があるとのこと。

 「独居で近所付き合いなどがない、いわゆる引きこもり老人といわれる人たちも男性の方が多い。うちの母はスマホを覚えてメールも打てますが、父はやろうとも思わないようです。しかし、父はスマートスピーカーを使うことで、私と会話をしてくれています。母がいると話さないのですが、一人でテレビを見ているときなどに呼びかけると話します。

 IT機器の導入に関しても、30年以上兄を在宅介護するという状況がなければ父に反対されていたと思いますが、使っているうちにメリットを感じたようです。家が無人になっているときに、ネットワークカメラで家の様子を見てくれと父に頼まれたこともあります