親も70代や80代になってくると、今すぐ介護の必要はなくても、健康状態や日々の行動など、子どもとしては気がかりなことが増えてきます。そうしたときに頼りになるのがITの力です。長年兄の自宅介護を経験し、現在はIT機器を活用しながら離れて暮らす両親の様子を見守っている介護エンジニアに、手軽に使えるアイテムや具体的な導入のコツなどを聞きました。3回に分けてお届けします。

 変わりなく元気にしているのか、食事はきちんと取れているのか、実は内緒にしている体調不良があるのでは……高齢の親と離れて暮らしていれば、心配事はつきません。とはいえ、責任ある仕事を任されているARIA世代は、たびたび休暇を取って実家に顔を出すというわけにもいかないもの。特にコロナ禍では、会いに行くことがリスクになってしまう可能性もあります。

 では私たちは遠く離れた場所でヤキモキしているしかないのでしょうか。そんなことはありません。今はITの力を借りて、インターネットを通じた見守りができる時代になりました。もちろん大規模なITシステムを導入する必要はありません。家電量販店などで購入できる手ごろな価格の機器を使うことで、お互いに負担がない状態での見守りができるのです。

障害のある兄の見守りが、IT機器導入のきっかけに

 「介護の負担は分散させることが大事。IT機器を使えば、複数人で見守ることができる」と話すのは、介護エンジニアの福村浩治さん。福村さんは障害者の兄が2016年に44歳で亡くなるまで在宅介護を30年以上経験し、現在は離れて暮らす高齢の両親を、ITを使って見守っています。今回は福村さんに、兄の介護を通じて学んだことなどを聞きました。

 福村さんが小学校2年生の頃、兄は脳の病気を患い、右半身不随の知的障害者になりました。介助をすれば歩行ができ、寝たきりではなかったこともあり、家族は在宅介護を選択。専業主婦の母親が中心になって介護を行い、父親も会社生活の傍らサポート。福村さんはもう一人の兄と介護を手伝う日々を過ごしたそうです。

介護エンジニアの福村浩治さん
介護エンジニアの福村浩治さん

 大学を卒業して就職することになったとき、福村さんはエンジニアになることを決意しました。文系出身ですが、勤務体系が柔軟で、技術力を持てば個人でも仕事ができるエンジニア職なら、兄の介護との両立が可能なのではと考えたためです。そして30歳になる頃、介護に特化したエンジニアになるため、介護テック企業に転職して介護請求ソフトの開発を担当しました。その後別の介護テック企業に転職し、現在は児童発達支援施設の情報システム部としての業務や、子どもへのプログラミング学習設計、AIやスマートスピーカーを体験するワークショップ開催などを担当しています。