ガーナに捨てられた電子ゴミをアート作品に変え、売り上げの大半をスラム街支援に回す美術家・長坂真護さん。新刊『サステナブル・キャピタリズム』では、「資本主義社会から今すぐには抜け出せない。だからこそ、今は文化、経済、環境のバランスを取りながら回していくことが必要」と問いかけた。一方、『人新世の「資本論」』で脱資本主義を説き、大きな注目を集めた斎藤幸平さん。行動することで真理を見つける長坂さんと、理論で世界をリードする斎藤さん。対談の行方は? 全3回、お届けします。

(1)斎藤幸平&長坂真護「資本主義に飲み込まれないために」
(2)斎藤幸平「私がイーロン・マスクを尊敬できない理由」 ←今回はココ
(3)長坂真護&斎藤幸平 脱成長コミュニズムは実現できるか

長坂真護さん(以下、長坂) 僕が資本主義のゆがみに気が付いたのはニューヨークで路上画家をしていた頃。でも心からクソ野郎と思ったのはやはり、世界最大の電子機器のゴミ処理場といわれるガーナのアグボグブロシーを訪ねてから。東京ドーム32個分の面積に世界から集まった電子ゴミが積まれ、その処理をしている青年たちは有害物質にさらされながら1日500円で働いていた。ガスマスクを付けず作業しているため、30代で深刻な病に倒れる人もいました。

 僕は路上画家時代にスマホやタブレットの“せどり”で生計を立てていたこともあり、電子機器ゴミ処理場での現実を見て、自分を殴りたくなったんですよ。僕の生活の糧は、彼らの命を縮めていたのか、と。以降、このゆがみを生む正体は何かと追究しつつ、先進国とのアンバランスさを少しでも是正したいと、自分の絵にレバレッジをかけ、現地への投資を考え始めたんです。「資本主義に飲み込まれないために」参照)

 斎藤さんがマルクスに目覚めたのはいつ?

左/現代美術家・長坂真護さん、右/東京大学大学院総合文化研究科准教授・斎藤幸平さん
左/現代美術家・長坂真護さん、右/東京大学大学院総合文化研究科准教授・斎藤幸平さん

斎藤幸平さん(以下、斎藤) 高校生の頃は将来、国連などの国際機関に就職し、国際紛争や貧困問題に取り組みたいと考えて大学は米国に留学しました。しかし、世界で最も豊かなはずの米国で貧困や格差の問題を目撃し、社会のゆがみの多くが自分を含めたマイノリティーの人たちに押し付けられている現実を目の当たりにしました。その中で、資本主義という経済の根本に手を付けないと何も変わらないと考え、ドイツの大学院に行ってマルクスの研究を始めたのです。そこでマルクスの晩年の未完のノートを知りました。そこには、環境問題への深い関心がつづられていたのです。