ガーナに捨てられた電子ゴミをアート作品に変え、売り上げの大半をスラム街支援に回す美術家・長坂真護さん。新刊『サステナブル・キャピタリズム』では、「資本主義社会から今すぐには抜け出せない。だからこそ、今は文化、経済、環境のバランスを取りながら回していくことが必要」と問いかけた。一方、『人新世の「資本論」』で脱資本主義を説き、大きな注目を集めた斎藤幸平さん。行動することで真理を見つける長坂さんと、理論で世界をリードする斎藤さん。対談の行方は? 

(1)斎藤幸平&長坂真護「資本主義に飲み込まれないために」 ←今回はココ
(2)斎藤幸平「私がイーロン・マスクを尊敬できない理由」
(3)長坂真護&斎藤幸平 脱成長コミュニズムは実現できるか

左/美術家・長坂真護さん、右/東京大学大学院総合文化研究科准教授・斎藤幸平さん
左/美術家・長坂真護さん、右/東京大学大学院総合文化研究科准教授・斎藤幸平さん

電子ゴミのアートは「人新世」を可視化したもの

長坂真護さん(以下、長坂) 僕は、「電子機器の墓場」と呼ばれているガーナのアグボグブロシーから電子ゴミを持ち帰って作品を作り、その売り上げをガーナのスラム街の雇用創出、環境改善の事業に投資しているのですが、僕の活動を知った人や、僕が提唱するサステナブル・キャピタリズムの概念を説明するたびに『人新世の「資本論」』(集英社新書)を書いた斎藤幸平さんに考えが近い、とよく言われていたんです。だから、斎藤さんにお会いしたいとずっと思っていました。

 ちなみに僕が唱えるサステナブル・キャピタリズムとは、「環境、文化、経済」をバランスよく回す社会システムのことです。

斎藤幸平さん(以下、斎藤) 長坂さんの『サステナブル・キャピタリズム』(日経BP)、その行動力に圧倒されながら一気読みしました。上野の森美術館(東京・台東区)で開催された展覧会にも伺いましたよ。

長坂 それはうれしいな。

斎藤 実際に電子ゴミの作品を見て胸に迫るものがありましたが、会場のコーナー奥に満月を描いた作品が展示されていて、その対比にまさに、「人新世」を見た思いがしました。

 人新世とは地質学的概念で、人類の経済活動が地球の表面を覆い尽くしてしまった年代を意味するのですが、真護さんの作品は人新世、というかもはや「ゴミ新世」を可視化したものです。その一方で、「月」という人間が変えていない存在の美しさがとても印象的でした。

 『人新世の「資本論」』でも書いたように、私たち先進国の豊かな暮らしは、グローバル・サウスと呼ばれる貧しい国の犠牲の上で成り立っている。資本主義はこの現実を隠蔽します。人々がこの過酷な現実について考え始めたら、消費が楽しくなくなってしまうから。でも、真護さんの作品はまさに強烈なインパクトで、この問題への気づきを与えています。私の本とアプローチの仕方は全然違うけど、目指しているところが似ていると親近感を持ちました。

上野の森美術館で開催された「長坂真護展 Still A “BLACK” STAR」で展示された『月』の前で話す長坂さん。2000万円の値を付けた『真実の湖』など、電子ゴミを使って制作した作品が多数展示された
上野の森美術館で開催された「長坂真護展 Still A “BLACK” STAR」で展示された『月』の前で話す長坂さん。2000万円の値を付けた『真実の湖』など、電子ゴミを使って制作した作品が多数展示された
上野の森美術館で開催された「長坂真護展 Still A “BLACK” STAR」で展示された『月』の前で話す長坂さん。2000万円の値を付けた『真実の湖』など、電子ゴミを使って制作した作品が多数展示された