資本主義にのみ込まれるリスクとどう付き合う?

長坂 僕はアンチ資本主義というわけではないんです。生まれてこの方ずっとずぶずぶの資本主義の中で生きてきて、資本主義を全否定するのは母親をナイフで刺すようなものだと思う。だから僕は資本主義をハックすることを考えた。資本主義の仕組みをハックしつつ、僕の作品をトリガーにしてニュートラライズ(中和)された世界をつくりたいんです。

 斎藤さんは、SDGs(持続可能な開発目標)は現代のアヘンだと言っているじゃないですか。僕はSDGsはお経のようなものだと言っています(笑)。信じる心がなければ単なる見せかけ。でも、世間がSDGsという言葉の持つ毒に酔っている間に変えるしかないというのが、僕のかじ取りなんです。

「真護さんの作品は人新世を可視化したものでした」
「真護さんの作品は人新世を可視化したものでした」

斎藤 実は真護さんの『サステナブル・キャピタリズム』をゲラ(試し刷り)の段階で読みました。担当者から書籍の帯に推薦文を寄せてほしいと依頼されたのですが、すごく面白いと思ったけど、僕が提唱しているのは真護さんの言う母親殺しなので(笑)、読者に間違ったメッセージを与えかねないと危惧し、お断りしました。むしろ、直接会って議論したいなって。

 真護さんにずっと聞きたかったのは「資本主義をハックする」と言いながら、自分がその資本主義にのみ込まれてしまいかねないリスクと、どう対峙(たいじ)しているかということ。

 真護さんの高額な作品を購入できる層は、資本主義の汚れた手でお金をもうけた人たちが多いはず。僕は学者なので、日常生活の中ではそれほどビジネス的なことを気にしないで生活できますけど、真護さんは絵を描くだけでなく会社も経営しているし、ガーナでは事業も行っている。そうすると、金持ち相手のビジネスをする中で、最終的には資本主義のスキームにのみ込まれてしまうんじゃないの、と思ったりするわけです。