私たちがテレビなどのメディアで触れている経済問題は一般的な解釈(A面)です。一方で経済問題には「こういう見方もある一方で、こういう見方もできる」という別の視点(B面)が存在します。ARIA世代が知っておくべき経済問題の「A面」と、そうだったのか! と思わず膝を打つ「B面」を、気鋭のエコノミスト・崔真淑(さいますみ)さんが分かりやすく読み解きます。

5000円札の肖像は「女性枠」なのか

 2024年度前半に紙幣(日本銀行券)が一新され、5000円札には津田梅子の肖像が使われることが決まっています。

 前回のお札の刷新は2004年で、樋口一葉が5000円札に採用されて話題になりました。明治時代の政府紙幣に神功皇后(じんぐうこうごう)が、2000年の2000円札に紫式部の図柄が使われたことはありますが、日本銀行券に近現代に活躍した女性の肖像が登場したのは初めてのことでした。

 樋口一葉は明治時代の文学者、津田梅子は日本初の女子留学生で、女子英学塾(現・津田塾大学)の創設者です。女性の活躍が難しかった時代に残した大きな功績に対して「なぜ、2人そろって1万円札でなく5000円札なのだろう」という素朴な疑問は、私の中にずっとありました。そこで、仮定としてこんなふうに考えました。

 偉人たちの残した功績は定量化できません。もちろん、紙幣の金額の大小と、功績の大きさは連動していないものの、「1万円札ならば福沢諭吉、渋沢栄一ですよね」というふうに、その人物の印象が、どの額の紙幣にするかの決定を左右していることが考えられます。そうなると「では、女性が一番小額紙幣の1000円ではなんですから、5000円札で」という落としどころが、なんとなく、社会に受け入れられるのかもしれません。

女性管理職だけでなく、もっと女性議員を増やす

 例えば新しい紙幣の「顔」が発表されたとき、「性別」は大きな話題にならず「どんな人か」で注目されるというくらいに、当たり前に女性が活躍するような世の中にしていくには、どうすればいいのでしょう。

 2019年5月には、企業の女性役員比率の3割達成を目指す、英国発祥の「30%クラブ」が日本でも始動するなど、企業の中で女性の役員比率を高めようとする動きが起きています。また8月には、東証1部上場企業の取締役のうち女性は5.7%となり、1000人の大台に乗ったという報道もありました。

 男性を含めた育児休業制度の充実など、女性の役員比率向上の後押しとなる制度の充実も必要です。ただ、そうした施策だけではなく、もう一つ、大切なポイントがあるのではないかと私は考えています。

今回のKey Word「計量経済学」
かつて「机上の空論」といわれていた経済学は、IT社会で現実のデータを活用する「計量経済学」の発達で、かなりの高精度での因果関係分析が可能になった。計量経済学の研究者は、Google、Apple、Facebook、Amazonといった巨大IT企業にも欠かせない人材となっている。