私たちがテレビなどのメディアで触れている経済問題は一般的な解釈(A面)です。一方で経済問題には「こういう見方もある一方で、こういう見方もできる」という別の視点(B面)が存在します。ARIA世代が知っておくべき経済問題の「A面」と、そうだったのか! と思わず膝を打つ「B面」を、気鋭のエコノミスト・崔真淑(さいますみ)さんが分かりやすく読み解きます。

リーマン・ショックでボーナス額が十分の一に

 私は、想定していたボーナスの金額が「約十分の一」になった経験があります。

 2008年のリーマン・ショック当時、私は投資銀行に勤めていました。今では信じられないことですが、かつて投資銀行ブームというものがあり、外資系の投資銀行では30代で年収1億円、日系でも年間何千万円もの収入を得るのは夢ではありませんでした。2007年までの就職活動でも、金融機関のなかでも投資銀行は有望な就職先だと言われていました。

 金融機関は、業績が経済に強く連動します。そしてリーマン・ショックによって、それは大いに裏目に出ることになります。リーマン・ブラザーズは倒産して野村証券に買収され、有名な投資銀行も日本から撤退するなど、その爪痕は今も残っています。

 そしてリーマン・ショックを契機に起きたことといえば大量の「派遣切り」。このときの雇用への影響は山一証券破綻時の比ではなく、経済格差が広がる引き金にもなりました。

 これらの経験によって私は、収入が激減したというショック以上に、大きな学びを得ました。それは「ずっともうかり続ける業界はない」ということです。

生き残れるのは「変化を繰り返している企業」

 こうした話をすると、「いやいや、それはあなたが投資銀行にいたからそう思うのでしょう」と言われてしまいがちです。

 そこで、リーマン・ショックのあった2008年とその10年後の2018年で、アメリカの上場企業の株式の時価総額ランキングを比較し、日本とも比べてみましょう。

 アメリカのリーマン・ショック前の1位はエクソンモービル、2位ウォルマート、3位プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)で、4位にマイクロソフト、5位がゼネラル・エレクトリック(GE)という顔ぶれです。それに対して2018年はデジタル系企業に独占され、主役だった産業が大きく変わったことが分かります。唯一残っているマイクロソフトも、ビジネスモデルを大変革させて生き残っています。また2018年の5位には、ニューヨーク証券取引所に2014年に上場した中国ネット大手のアリババ・グループ・ホールディングがランクインして、アメリカ市場の懐の深さを見せています。

 その一方で日本はどうかといえば、任天堂とソフトバンクを除くとトヨタ自動車、NTTドコモ、NTT、三菱UFJフィナンシャル・グループと、10年後もほぼ同じ企業名が並んでいます。

 国を代表する産業が固定的で変化が小さかったことが、リーマン・ショックの震源地アメリカよりも日本の経済回復が遅れた背景の一つともいわれています。その後、アメリカは産業構造を大きく変えて、非常に好調な経済を維持してきました。そして世界規模でみれば、デジタル系企業への産業構造の変革は避けて通れません。

 このように世界に目を向けたとき、「ここなら絶対安泰」という業界はないことが見えてきます。もちろん、AIといった現代のトレンドも含まれるでしょう。