私たちがテレビなどのメディアで触れている経済問題は一般的な解釈(A面)です。一方で経済問題には「こういう見方もある一方で、こういう見方もできる」という別の視点(B面)が存在します。ARIA世代が知っておくべき経済問題の「A面」と、そうだったのか! と思わず膝を打つ「B面」を、気鋭のエコノミスト・崔真淑(さいますみ)さんが分かりやすく読み解きます。

コロナ禍でも希望はあった

 もし、新型コロナウイルスの感染拡大がなかったなら、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会は予定通り行われ、8月上旬まではオリンピック、下旬からはパラリンピックで街は盛り上がっていたはず。東京をはじめとした各地には海外からも人々が訪れて、日本中がにぎわっていたことでしょう。盛り上がるはずだった2020年の夏がこんなに重苦しくなるとは、思ってもみなかったことです。

 コロナ禍で聞こえてくるのは、良くないニュースばかり。自粛ムードが続く中、そろそろ私たちは、不安にすら慣れつつあるような気がします。しかし、これだけ大きなことが起きているのです、そこから少しでも、良い面を見つけられないものでしょうか?

 あえて、コロナ禍の「希望」を挙げるとしたら……。経済の視点から、私は下記の4つに注目しています。順番にお話ししていきましょう。

1 創造的破壊(ディスラプト)によりゾンビ企業が淘汰(とうた)される
2 短期利益の追求から、ESG(環境・社会・ガバナンス)重視へ
3 単身赴任制度見直しなど、大企業から働き方の変化が起きる
4 ハイスキルな人材が、リストラ&転職を経て新天地で活躍
コロナ禍に、本当に希望は見つかる?
コロナ禍に、本当に希望は見つかる?

1 創造的破壊により、ゾンビ企業が淘汰される

 東京商工リサーチの発表による2020年6月の企業倒産件数(負債額1000万円以上)は、前年同月比の6.2%増の780件となり、負債総額は1288億1600万円(同48.1%増)となりました。政府や自治体は企業の経済的支援や資金繰りへの支援に力を入れているため、2008年のリーマン・ショック後と比べれば、倒産件数はまだ低い水準で推移しているといわれています。

 報道されているように、コロナ禍の中で厳しい状況が続いているのは、飲食や娯楽、小売り、旅行や宿泊といった、私たちの暮らしに身近な業種です。さらには消費の低迷によって、その影響は製造業にも及びはじめてもいます。

 その一方で、困っている企業のなかには「コロナ禍に関係なく、もともと経営不振だった」という場合もあります。収益力がない、生産性が低い、といった問題を抱えながら、そこには手を付けず、規制に守られる形で事業を継続してきた、というパターンなどです。そうした企業がコロナ禍でついに倒産するというケースも増えています。

 もともと経営状況が厳しく、金融機関への返済猶予を受けるなどしながら、赤字のまま事業だけ続けている。こうした企業は「ゾンビ企業」と揶揄(やゆ)されることがあります。見た目では、優良な企業かゾンビ企業かということは、なかなか分かりません。そして経済危機が起きたとき「本当に救済すべき企業がどこか」という判断も難しいため、一律に、という形がとられ、ゾンビ企業の支援に助成金が充てられてしまうこともあります。