ヘッジファンドが英国ポンドを暴落させた

 1970年代の終わりに、欧州単一通貨への第一歩であるEMS(欧州通貨制度)が発足します。加盟国は自国の通貨のレートを一定範囲内に固定する必要がありました。イギリスも、EMSに参加しており、自国のポンドを為替操作して固定相場に合わせていましたが、実際の経済は低迷していました。

 イギリスのポンドは、本来の価値に比べて高く固定されている――。ここに目を付けたのが、投資家のジョージ・ソロス率いるヘッジファンドでした。彼らは巨額の資金を投じて、ポンドを空売りします。イングランド中央銀行はポンドを買い支えますが、暴落を止めることができず、1992年の「ポンド危機」が起きました。イギリスはEMSから撤退、そのためユーロにも参加できなかったのです。

 ユーロは加盟国間での取引を活性化させ、市場拡大を促しますが、一方で経済規模の異なる国同士が同じ為替でやり取りするため、EU内での地域格差が拡大することなどが指摘されています。

 また、ギリシャのような経済が弱い国では独自の金融政策が取りづらく、経済政策が遅れてしまいます。一方で、このような経済の弱い国の経済情勢を反映してユーロ安になったときは、輸出産業を中心とするドイツのような国は有利になります。東西ドイツ統一で苦しんできたドイツがEUで「独り勝ち」と言われてきたのは、数々の改革の成果でもありますが、ユーロが寄与した面もあるのです。

今回のKey Word「単一通貨」
欧州単一通貨であるユーロは、1999年に決済用通貨として、2002年に現金通貨として発足した。単一通貨は人、モノ、カネの移動を円滑に進め、経済の流動性を高める。一方、独自の金融政策が取りづらいため、経済が弱い加盟国の経済対策が遅れてしまうという弊害がある。