世界経済フォーラム(WEF)が毎年発表する「ジェンダー・ギャップ指数」は、経済活動や政治への参画、教育水準、健康面など4つの分野から算出される男女間の格差を示す指標です。2019年12月の発表では、日本は153カ国中121位と過去最低を更新。もちろん、主要先進国では最低でした。日本の社会でジェンダーギャップを生み出す意識とはどのようなものか、その結果どんなことが起きているのか、東京大学大学院総合文化研究科 国際社会科学専攻 教授の瀬地山角さんが解説します。
(1)ジェンダーのステレオタイプで生まれる2億円の家計損失 ←今回はココ
(2)日本をハゲ山にしないために
(3)個人差は性差を必ず超える
―― 「ジェンダー」という言葉を日常的に耳にするようになりました。改めて、ジェンダーって何ですか。
瀬地山角さん(以下、敬称略) 社会や文化によってつくられる性別です。男性と女性では体のつくりや生理的な働きに違いがあります。そうした生物学的な違い=セックスではなく、男性が働き、家事・育児は女性がするものというような、社会や文化が生んだ男女の役割、人の考えによってつくられた性差がジェンダーです。
―― 長い歴史が、家事・育児は女がするものというステレオタイプをつくってしまったのですね。
瀬地山 長い? いえいえ、何をおっしゃいますやら。女性が家事・育児をしていたのは事実ですが、日本で「育児=母親だけの仕事」という構図になったのは、せいぜい100年の歴史でしかありません。大正期の東京や大阪などの大都市部で主婦が誕生し、戦後、「サラリーマンと専業主婦」という組み合わせが広がりました。国勢調査をみても、女性が働いている割合が最も低いのは、1975年です。専業主婦という生き方が確立したのはこの頃なんです。
それからすでに45年。2019年には共働き世帯は1245万で、専業主婦世帯575万の2倍以上になっています。にもかかわらず、女性に家事・育児の負担がのしかかっている。共働き世帯の夫の1日の家事時間はわずか46分であるのに対して、妻は4時間54分(※)です。女性の側に一方的に二重負担が生じている。
※総務省「社会生活基本調査」(2016年)より