さまざまな課題解決法を試してもうまくいかないとき、必要なのは「自分と向き合うこと」かもしれません。VUCAの時代、自分とチームを成長させていくのに必要なスキルとして注目されているのが「リフレクション(内省)」です。リフレクションを使って経験から学び、未来に生かす方法を、人材教育に詳しい昭和女子大学キャリアカレッジ学院長の熊平美香さんに聞きました。

(1)VUCA時代の成長スキル「リフレクション」で自分軸を ←今回はココ
(2)多様な意見を引き出して合意形成するための4ステップ
(3)過去の成功体験を手放す「アンラーン」で成長が持続する

過去の成功体験にとらわれると前に進めない

編集部(以下、略) 人材教育におけるリフレクションとはどのようなことで、どんな効果があるのでしょうか?

熊平美香さん(以下、熊平) リフレクションとは自分の内面を振り返り、俯瞰(ふかん)して内省することです。経験から正しく学び、行動していくためにはリフレクションを習慣化することが欠かせません。現状とありたい姿のギャップを埋めていくには現実を見る必要があります。振り返って学び、軌道修正していく。良質なリフレクションがなければ複雑な問題を解決できません。

 今までは会社に成功のルートがあったかもしれませんが、今の時代は自分が何者か、何をしたいのか、自ら考えなくては生きていけません。大きなパラダイムの転換点にいるため、過去の成功体験にとらわれ前に進めない人もいるでしょう。成功体験を手放すためには、そこからどのようなものの見方や価値基準が形成されたかを可視化し、そのうちのどれを手放せばいいかを認識する必要がありますよね。そのために有効なのがリフレクションです。

 VUCA(※)の時代はPDCA(Plan=計画、Do=行動、Check=評価、Action=改善)サイクルでは対応できないといわれています。見通し、行動、振り返りで進む、AARサイクル(Anticipation・Action・Reflection)への転換が必要であり、そこで鍵となるのが良質なリフレクションなのです。

※「VUCA」とはVolatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の4つの単語の頭文字をとった造語。ブーカと読む

―― リフレクションは日本語で「内省」という意味ですが、反省とはどう違うのでしょうか?

熊平 リフレクションは反省ではなく、自らを振り返り、深く考える作業です。経験からの学びを未来に生かすことが目的になります。ただ起きた事実だけを振り返ったり、他者や環境に原因を求めたり、自分の取った行動を改めることだけではイノベーションを起こせません。行動の前提にある自分の考えを俯瞰し、原因を生み出した自分の思考に気づくことが必要なのです。

―― なるほど。では、どうすれば良質なリフレクションができますか?

熊平 まず押さえておきたいのが、認知(知覚、判断)の枠組みを整理するためのフレームワーク「認知の4点セット」です。自分の意見・判断(認知)は過去の経験、感情、価値観から形成されています。

 次のページではこの認知の4点セットを使ったリフレクションの具体的な方法を紹介します。