発達障害は脳機能の発達のばらつきによって起こります。一人ひとり、得意なことや不得意なことが違いますので、その特性を理解して適切に対応できれば、仕事でのパフォーマンスを高めたり、お互いのストレスを軽減したりすることもできるのです。どのように対応すればよいのか、精神保健福祉士の佐藤恵美さんが解説します。

(1)発達障害の部下には、特性を理解して対応することが大事
(2)発達障害の問題行動が出やすい環境は?上司にできること
(3)発達障害特性の問題を軽減する職場マネジメントのコツ ←今回はココ

 第1回では発達障害の中核的な特性について、第2回は発達障害特性を持つ人を理解するための視点と対応ポイントについてお伝えしました。今回は、発達障害特性がある部下をマネジメントする際に、上司も部下もストレスを高じさせない考え方をお伝えしたいと思います。

障害特性は職場環境やマネジメントによって問題化を防げる

 発達障害(かもしれない)の人の対応にストレスを感じてしまうのは、「本来なら手をかけないでもよいことに余計な手間やエネルギーがかかる」と思うからではないでしょうか。確かにただでさえ多忙を極める中で、そうした手間がかかると思えば、心理的にも大きな負担となることは想像に難くありません。

 実はそのストレスを生む前提には、「(常識的な)このやり方でできるはず(なのに)」「なんとか(常識的に)できるようにさせなければ」という考え方があります。これは従来なら当たり前の「育成」の考えでしょう。しかし発達障害への対応において、ここにこそ考え方をシフトしていくべきポイントがあります。

 少し話はそれますが、ここで「発達障害」と「定型発達」についてお話ししましょう。発達障害とは、生来性の脳機能の発達のばらつきであるという話はすでにしましたが、発達障害に相対する概念を「定型発達」といいます。

 赤ちゃんの成長をイメージすると分かりやすいと思いますが、定型発達とは「おおむねその年齢に応じた発達をしている」という意味です。しかし、人の顔が皆違うように脳発達にもそれぞれ個性がありますから、多くは完全に定型通りではありません。だからこそ、それぞれ得意や不得意が個性を形作っているとも言えます。これを読んでいる方も、発達障害特性の一部は自分にも当てはまると心当たりを覚える方も少なくないと思います。

定型発達と発達障害の境界はハッキリ分けられない
定型発達と発達障害の境界はハッキリ分けられない

 実は「発達障害」と「定型発達」は上図のように表せます。両者は明確に二分されるものではないのが分かると思います。発達障害はグラデーションであって、誰しも完全に定型発達ということはないのです。そして、発達障害特性があったとしても取り巻く環境によって「特性が問題として顕在化するかどうか」が変わってきます。ですから、職場であれば仕事とのマッチングや職場環境、マネジメント次第で、特性が問題として顕在化しない、さらには特性を生かせる可能性さえあるとも言えます。