もし、一緒に働く部下や同僚が発達障害だったら、職場で問題になる行動にどのように対応するのがよいか。目に見える言動ばかり取り沙汰されますが、水面下には原因となる障害特性や、問題が顕在化しやすい環境があるようです。それを理解するための視点と対応のコツを、精神保健福祉士の佐藤恵美さんが解説します。

(1)発達障害の部下には、特性を理解して対応することが大事
(2)発達障害の問題行動が出やすい環境は?上司にできること ←今回はココ
(3)発達障害特性の問題を軽減する職場マネジメントのコツ

 前回記事では、発達障害を持つ人にどのように対応すればいいのかを知る前に、まずは中核的な障害特性について知っていただきたくて紹介しました。しかし、発達障害を抱える人を理解するには、障害特性の他にとても重要な視点がいくつかあります。今回はそれらをご紹介したいと思います。

職場での「不適切な行動」は氷山の一角

 これは、職場で生じるさまざまな困った状況を氷山モデルで考える図です。往々にして、職場での目に見える「不適切行動」が「障害特性」として捉えられ、それだけが取り沙汰される傾向にあります。実は、不適切行動は、水面上に見えている氷山の一角にすぎません。

表面的な言動だけでなく、水面下の障害特性や環境も合わせて見なければ、不適切な行動に対処するのは難しい
表面的な言動だけでなく、水面下の障害特性や環境も合わせて見なければ、不適切な行動に対処するのは難しい

 発達障害を持つ人の不適切行動だけを列挙することは、ただ「ダメ出し」のオンパレードになるだけで、その人に対する理解にも、事態の改善策にもつながりません。重要なことは「不適切行動」の水面下にある「障害特性」を含めた氷山の全体像を把握することです。

 例えば、「同じミスを繰り返す」という行動には、「口頭で指示されると情報処理が追い付かなかったり、記憶をとどめておけなかったりする」という特性があるかもしれませんし、必要な情報を選択したり、注意集中を長時間維持したりなどの「注意の向け方が不器用」という特性があるのかもしれません。

 さらに、氷の周りの「海水」は周囲の環境のことです。例えば、曖昧な口頭指示しかないとか、仕事をするデスクが注意集中を困難にさせる人通りの多い場所にある、などです。つまり、障害特性が問題化しやすい環境かどうかということも重要なのです。

 このように、生じている問題の根底にある「障害特性」や、影響を受ける「環境」をきちんと分析することによって、業務や指示の与え方や、進捗の確認の仕方、作業が進む環境づくり、などの具体的な改善策が見えてくるという訳です。