地図から見える世界のパワーバランスを学んできましたが、経済的な発展には安全で効率のよい「ルート」の確保が何より大事だということが見えてきました。確かに、近ごろ気になるニュースの裏にはルートをめぐる各国の思惑が。その中で果たして日本がとるべき立場とは? 地政学・戦略学者の奥山真司さんに、詳しく解説してもらいました。

(1)ウクライナ情勢で注目の地政学に黒歴史 ルーツは戦争に
(2)緊張する台湾海峡 「海の通り道」で国際情勢を読み解く
(3)スエズ運河の座礁事故と北極海の意外な関係とは? ←今回はココ

地政学に見る日本の立ち位置とは

編集部(以下、略) ここまで、世界のパワーバランスについて、海と大陸の関係を学んできましたが、ユーラシア大陸の東側の海に位置する日本の立ち位置について教えてください。

奥山真司さん(以下、奥山) 米国を筆頭とするシーパワーの一部として、大陸からランドパワーの勢力が進出してくるのを抑える役割を担っています。かつてほどの輝きは失ったとはいえ、日本はいまだ世界第3位の経済大国ですので、まだアジアにおける影響力はあります。

 中でも海上自衛隊の働きは大きく、米国のパートナーとして展開できる国として、アジアの安全保障にこれからも貢献すべきなのだと思います。

ユーラシア大陸の内陸に位置するハートランドから気候に恵まれたリムランドに進出しようとする力(ランドパワー)と、海に面したリムランドの抵抗する力(シーパワー)は常にせめぎ合っている(図は『ビジネス教養 地政学』(奥山真司著 新星出版社)を参考に編集部で作成)
ユーラシア大陸の内陸に位置するハートランドから気候に恵まれたリムランドに進出しようとする力(ランドパワー)と、海に面したリムランドの抵抗する力(シーパワー)は常にせめぎ合っている(図は『ビジネス教養 地政学』(奥山真司著 新星出版社)を参考に編集部で作成)

―― つまり、米国に追随するということですか?

奥山 日本は米国に追随するだけじゃないということを示したのが、安倍元首相が進めていた「自由で開かれたインド太平洋」戦略です。太平洋からインド洋までを大きな地域として見て、航行の自由や自由貿易を通して経済的な繁栄や平和と安定の確保を目指すという構想です。

 米国1強でなく、インドやオーストラリアを引き入れて、中国もその中の1国として巻き込むことで、中国だけが勢力を強めようとすることを抑えられると考えたわけです。この戦略は現在の岸田政権でも受け継がれています。

自由で開かれたインド太平洋構想は、インド洋、太平洋を通じてアジアとアフリカの連結性を高めて海洋貿易を発展させ、2つの海の中心に位置する東南アジア諸国連合(ASEAN)とともに地域全体の安定と繁栄を推進する構想(図は外務省「自由で開かれたインド太平洋の基本的な考え方の概要資料」から抜粋して編集部で作成)
自由で開かれたインド太平洋構想は、インド洋、太平洋を通じてアジアとアフリカの連結性を高めて海洋貿易を発展させ、2つの海の中心に位置する東南アジア諸国連合(ASEAN)とともに地域全体の安定と繁栄を推進する構想(図は外務省「自由で開かれたインド太平洋の基本的な考え方の概要資料」から抜粋して編集部で作成)

奥山 第1回で「地政学リスク」の話をしましたが、どこかの地域のパワーバランスが崩れるとビジネスにも大きな影響を与えることがあります。

―― 具体的にどのような例がありますか?