ロシアが突然ウクライナのクリミア半島を併合したのは2014年。なぜそんなことをしたのかと驚きませんでしたか? しかし地図を通して読み解けばロシアの思惑はありありと見えてきます。地政学の観点から地図を読む6つのキーワードについて、地政学者の奥山真司さんに、詳しく解説してもらいました。

(1)ウクライナ情勢で注目の地政学に黒歴史 ルーツは戦争に
(2)緊張する台湾海峡 「海の通り道」で国際情勢を読み解く ←今回はココ
(3)世界のニュースを地政学で読み解いてみれば

世界をコントロールするカギは海のルート

編集部(以下、略) 前回(ウクライナ情勢で注目の地政学に黒歴史 ルーツは戦争に)は地政学が国家の世界戦略を立てるのにどう生かされてきたかを学びましたが、具体的にどうやって地図を読むのでしょうか。

奥山真司さん(以下、奥山) 地政学を理解するために6つの視点、キーワードを説明しましょう。1つ目のキーワードは「コントロール」です。古典地政学の狙いは地理的な条件に基づいて争いに勝つことでしたが、勝利した後に優位を保つことが大事ですね。地政学の考え方を活用すれば、あえて戦争を仕掛けて領土を奪わなくても、経済的に優位に立ちコントロールする方法を考えることができます。

 そのために重要なのが2つ目のキーワード「ルート」。通り道のことで、海の通り道は俗にSLOC(Sea Lines of Communication)と呼ばれます。地政学は面で考えるといわれますが、全世界を効率よくコントロールする上で大事なのは海の通り道です。飛行機が発達した今も圧倒的に輸送力の大きな海運は貿易の要ですし、海の航路は軍事戦略にとっても重要。そのときに必要なのが古典地政学の知的伝統です。

 日本で使われている電気の多くは石油の火力によって発電されています。その石油は、カタールあたりからホルムズ海峡、マラッカ海峡を通って20万~30万トンのタンカーで1日2回ほど運ばれてきます。海に浮かぶパイプラインのようなもの。このルートが閉ざされてしまえば、私たちの生活は止まってしまいますね。

 そのルートをコントロールするために重要なのが3つ目のキーワード、「チョークポイント」です。SLOCを航行する上で、絶対に通る海上の関所のようなもの。具体的には、遠回りせず効率よく航行するために通る海峡や、燃料や物資の補給のために必ず立ち寄る場所で、世界に十数カ所あるといわれています。

 例えば、大西洋から太平洋に物資を運ぶのに、もしパナマ運河を通れなければ、南米をぐるっと大回りするルートしかなく、かかる日数は大幅に伸び、燃料や人件費などコストが跳ね上がってしまいます。チョークポイントを支配する国に高い通行料を払ってでも、他の国の船はパナマ運河を通るほうが効率はいい。

 ですからルートを支配するには、チョークポイントを押さえれば効率よく影響力を持てるわけです。逆にチョークポイントを封鎖すれば世界の貿易や安全が脅かされてしまいます。

―― なるほど。ホルムズ海峡が封鎖されると世界のエネルギー供給が止まるわけですね。

奥山 はい。では、そのルートといくつかのチョークポイントは誰がその安全を担保しているのか。最終的には米国の海軍です。

 そんな重要なチョークポイントを中国が勝手に占拠しようとしているので米国が怒っているんです。例えば、台湾海峡が自由に航行できなくなくなった場合、米国は台湾を支援するために、日本の沖縄の基地からすぐに駆けつけることができるぞと中国に圧力をかけてコントロールしているのです。