では昭恵さんは、あの場でいったい何を着用すればよかったのか。ふさわしい正解は何だったのか。ここで知識としてお伝えしておきますが、安倍首相が伝統的な束帯姿ではなく、えんび服を着用されたということ。これは、憲法にのっとった国民主権を改めて印象付ける装いでした。そのえんび服とホワイトタイの組み合わせは、洋装の中で最も格調高い装いになり、女性は男性のドレスコードに準じて服装を決めるのが基本になります。

 えんび服に格式を合わせるという意味では、昭恵さんはローブ・モンタントが最もふさわしかったといえます。ローブ・モンタントとは、女性の昼の最上正礼装で、背中や肩を露出していない立襟で長袖のドレスのこと。帽子をかぶり、扇や手袋を持つのが最も正式とされ、名称のローブはドレスを意味し、モンタントはフランス語で「高まる」「立った」の意で、夜の正装とされるローブ・デコルテが肩や背中を露出するほど襟をくくるのに対し、立襟を示しています。

ローブ・モンタントは、女性の昼の最上正礼装で、背中や肩を露出していない立襟で長袖のドレスのこと。帽子をかぶり、扇や手袋を持つのが正式とされる(イラスト:PIXTA)
ローブ・モンタントは、女性の昼の最上正礼装で、背中や肩を露出していない立襟で長袖のドレスのこと。帽子をかぶり、扇や手袋を持つのが正式とされる(イラスト:PIXTA)

元ファーストレディー2人の装いが正解

 元ファーストレディーである麻生千賀子さんの装いには、風格と配慮があり、洋服を熟知されており、着物に相当する存在感がおありでした。麻生太郎大臣のえんび服との美しいバランスは最もスマートだったと思います。

麻生太郎副総理・財務大臣夫人の麻生千賀子さんの装い。深いグリーンのロングドレスは開きが少ない襟ぐりで露出が少なく、シンプルなライン。3連パールのネックレスはドレスに映えて、上品な華やかさを演出している(イラスト:Takako)
麻生太郎副総理・財務大臣夫人の麻生千賀子さんの装い。深いグリーンのロングドレスは開きが少ない襟ぐりで露出が少なく、シンプルなライン。3連パールのネックレスはドレスに映えて、上品な華やかさを演出している(イラスト:Takako)

 麻生千賀子さんのグリーンのドレスは襟が立ち上がったデザインではありませんが、開きが少ない襟ぐりは露出が少なく、名称はローブ・モンタントあるいはロングドレスになります。シンプルなライン、深いグリーンに映える3連パールのネックレスはお祝いの席にふさわしく上品な華やかさを演出しています。

 パールは外部から侵入してくるゴミや不純物などから自身を守るために作られるものであることから、ネガティブなエネルギーを回避し、トラブルや災難から身を守ってくれる力があるとされています。パールの石言葉には「長寿」があり、これはドレスの色にも同じ意味合いが込められています。

 このグリーンの色は常盤色(ときわいろ)と千歳緑(せんざいみどり)が混ざったお色目に見えますが、松や杉などの常緑樹の葉の色のように茶みを含んだ濃い緑色のことを常盤色といいます。常磐は常に変わらないことを指す言葉で、千歳緑と同様に緑をたたえ、長寿と繁栄の願いが込められた色名です。また、江戸時代にも縁起の良い吉祥の色として好まれました。

 千歳緑は字のごとく長寿と不変の象徴です。パールにもドレスの色にも素晴らしい意味が込められており、麻生千賀子さんがこのメッセージと共にまとわれたのだとすれば、さすがとしか言いようがありません。帽子は皇室と同格になることを避けて被らずに、白い手袋に扇子という小物での演出は研ぎ澄まされていました。

 所作もエレガントで、このような「こなし」は熟すともいい、昨日今日で完成されたものではない、経験と余裕を感じるものでした。どちらかといえば小柄な方なのですが、それをみじんも感じさせない堂々とされたお姿に魅了されました。それは千賀子さんが実業家であるという肩書も大きく影響しているように思います。

和装のお手本は福田貴代子さんの色留め袖

 また同じく、元ファーストレディーの福田貴代子さんのお着物は安定感抜群でした。日本で行う伝統的な儀式ですから、皇族の方々と一番自然になじむのが着物であり、世界に発信されることを考えて日本の伝統が伝わる効果は一目瞭然です。

福田康夫元首相夫人の福田貴代子さんの着物は、今の季節にふさわしい大和柿色の色留め袖。黒留め袖とともに慶事に着用され、お祝いの席を華やかに演出する礼装(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)
福田康夫元首相夫人の福田貴代子さんの着物は、今の季節にふさわしい大和柿色の色留め袖。黒留め袖とともに慶事に着用され、お祝いの席を華やかに演出する礼装(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 貴代子さんのお着物は、今の季節にふさわしい大和柿色の色留め袖でした。色留め袖は黒留め袖とともに慶事に着用され、その明るい色調でお祝いの席を華やかに演出する礼装になります。以前は、黒留め袖と同じく既婚女性のみの正装とされていましたが、現在では未婚・既婚を問わず着用できます。

 色留め袖は紋の数によって格式が決まり、紋の数が多いほど格が高くなり、五つ紋であれば、黒留め袖と同格の第一礼装になります。喜代子さんは三つ紋、もしくは色留め袖は帯揚げや帯締めを白に統一にはされていないので一つ紋でいらっしゃるのでは、と推測しますが、現在はファーストレディーという立場ではいらっしゃらないこと、またロングドレスやデイドレスなどの参列者もいることを想定されてのバランスを考えれば問題ありません。

 紋がないものであれば、訪問着のように着るイメージになりますが、紋がなくとも訪問着より色留め袖は格上になりますので、知識として知っておくとよいでしょう。

 家紋とは日本特有の紋章であり、家の由来や家系を表す印(しるし)です。日本に古くからある文化で、江戸時代には庶民の間にも広がり、明治時代には紋付袴が多く用いられました。

 現代は「家紋がない」「分からない」人も多いですが、実は自分の代から新たな家紋を作ることも可能です。これを機に、日本の文化について今一度知っていただき、日本の美の象徴として現代でも幅広く家紋が活用されることを、個人的には望んでいます。

 着物の文化は、現代では一部で復活の兆しもあります。ただし、紋がある着物のほうが格上だとこの記事で知ったとしても、ネットオークションなどで着物を手に入れることはお勧めしません。もし、寸法が合っていて、映えるものだったとしても、家紋は違うはずです。その場合は紋抜きをして、改めて紋を入れ直す必要があります。なお、結婚式会場などのレンタルであれば、それなりにアドバイスできるプロがいらっしゃいますので問題はありません。

(編集部追記:2ページ目「家紋とは…」からの3段落を追記しました)