日々伝えられるニュースや宣伝情報。「あれ?」「どうして?」と、疑問や違和感を覚えることはありませんか? そんなARIA世代のひっかかりについて、違う角度からの意見を識者に聞いて、「なるほど!」をお届けします。今回は、ジョブ型雇用についてのお話です。

 10年前からジョブ型雇用を導入していた日立製作所を筆頭に、資生堂、富士通、KDDIなど、大手企業が相次いでジョブ型の人事制度を拡大、もしくは導入すると表明しています。そもそも「ジョブ型雇用」とはどういうものでしょうか。日本の企業がジョブ型雇用へと移行することで、ARIA世代にはどのような影響があるのでしょうか。パーソル総合研究所・上席主任研究員の小林祐児さんに聞きました。

企業がジョブ型雇用を導入する理由は?

―― まずは「ジョブ型雇用」がどのようなものか教えてください。

小林祐児さん(以下、敬称略) ポジションごとに仕事内容を明確にした上で人材を採用して配置する、欧米はじめ多くの国では一般的な雇用形態です。職務内容やそれに必要な能力を細かに記載した「職務定義書」(ジョブディスクリプション)を明示し、企業が求める能力を明確にして雇用契約を結びます。一方、日本で主流なのはいわゆる「メンバーシップ型雇用」。多くの企業が仕事内容を限定せず、広く人材を採用しています。新卒一括採用や終身雇用を前提に、企業が人材を囲い込んで育てるという考え方です。正社員としての立場は安定しますが、ジョブローテーションが一般的で転勤や配置転換などの業務命令には従わざるを得ないケースが多いです。

―― なぜ、ジョブ型雇用に注目が集まっているのでしょうか。

小林 「新型コロナウイルス禍でテレワークが普及し、ジョブ型雇用への転換の必要性が生じている」と勘違いしている方がいますが、転換の必要性の本質は別のところにあります。特にバブル崩壊後、日本型の雇用が制度疲労を起こしていることが顕在化しています。日本の経済自体が失速をする中で、雇用のあり方も変わらなければならないのは当然であり、決して新しいトレンドではないのです。企業がジョブ型雇用を導入する要因はさまざまにありますが、ロングトレンドとして、大きな要因が3つあります。

 まず1つ目は、少子高齢化。企業内に若手が少なく年長者が多くなるため、日本型雇用の年功的な賃金カーブで「長くいればいるほど賃金が上がる」のが困難に。総人件費の管理は、日本型雇用のアキレス腱(けん)として長く指摘されていました。日本経済の安定成長が終わり、成熟化しきっていることからも、既存のビジネスだけでは成長が見込めません。企業は人材を長期的に雇い、育成してビジネスを回す経営戦略の限界に気づいているのです。

 そうなると、人材を社外から取ってくるしかない。ここで2つ目の問題が生じます。市場の相場、つまりマーケットでの人材価値と、企業内・組織内の処遇の価値が不一致を起こしやすいことです。若い時は給料が安く、(能力や属性と関係なく)年を取ると給料が上がっていくシステムとはかみ合わないのです。例えば、若くてAIについて高度なスキルを持つ市場価値の高い人材を採用する場合に、「この人はいったいどのグレードになる?」といった事態が生じます。従来の枠には当てはまらないため、年収などで特別扱いをするしかなくなりますが、それでは組織人事としての一貫性が保たれない。つまり、外部人材を積極的に登用しようとすればするほど、「マーケットの処遇」と「企業内の処遇」の不一致を改善する必要が出てきます。

「ジョブ型雇用の導入には膨大な工数とコストがかかるため、移行に踏み出す会社はまだ余裕があるといえます。これからは団塊ジュニア世代が50歳を超え始めるタイミング。少子高齢化の影響が特に出やすいので、今のうちに手を尽くす企業が多くなると思います」(小林さん)
「ジョブ型雇用の導入には膨大な工数とコストがかかるため、移行に踏み出す会社はまだ余裕があるといえます。これからは団塊ジュニア世代が50歳を超え始めるタイミング。少子高齢化の影響が特に出やすいので、今のうちに手を尽くす企業が多くなると思います」(小林さん)