競泳選手としてアトランタ五輪に出場し、引退後は国連職員に。紛争地帯や難民など緊急支援を要する国・地域で援助活動を続ける国連児童基金(ユニセフ)教育専門官の井本直歩子さん。井本さんは今ユニセフを休職し、アスリートを対象にしたジェンダー平等意識の啓蒙活動に取り組んでいる。スポーツ界のジェンダーギャップの実情はどうなのか? これまで世界をフィールドに活躍してきた井本さんが日本で、この問題に取り組む理由とは? ジャーナリストの吉井妙子さんが迫ります。

ジェンダー平等意識が希薄な日本のスポーツ界

―― 井本さんらが企画した、アスリートを対象にしたオンラインセミナー「今だから知っておきたい、ジェンダー平等の基礎知識」が2021年4月末に開催され、複数のメディアに取り上げられるなど大きな話題になりました。

井本直歩子さん(以下、井本) 予想外の反響をいただき、改めて日本スポーツ界にはまだまだジェンダー平等意識が醸成されていないことが分かりました。

 当初はトップアスリート40人程度に限定し、ジェンダーの学術的な知識を一から学び、基礎を理解することで、ジェンダー平等の重要性を身近に感じてもらおうと考えていたんです。そして知識を得ることで発言力やリーダーシップが高められ、ゆくゆくはスポーツ界や社会に貢献できるアスリートが増えればいいなって。

 でもすぐに参加者が定員オーバーし、結局114人が参加。参加者も女性アスリートだけでなく、男性アスリート、スポーツ団体理事、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会の関係者、研究者、LGBTQの活動家、学生アスリートなどさまざま。第1回は入門編として、まずはジェンダーの基礎を講座形式で学んでもらいました。

 そして5月下旬に行った2回目は、アスリート限定のオンラインサロン形式にしました。著名な人が多いので、クローズドな環境で話し合わないと、それぞれが抱えている問題を本音で口にできないと考えたからです。各競技を代表するようなアスリートが集まってくれましたが、競泳出身の私が驚くような声も。やはり競技によって、ジェンダー課題にかなり差があることも分かりましたし、横のつながりは興味深く、話しやすかったですね。すぐに連帯感が生まれていました。

井本直歩子(いもと・なおこ)
井本直歩子(いもと・なおこ)
1976年、愛知県生まれ。96年にアトランタ五輪に出場し、競泳自由形リレーで4位入賞。97年米国サザンメソジスト大学に留学・卒業。2000年シドニー五輪代表選考会後に引退し、慶応義塾大学へ復学・卒業後、英国マンチェスター大学大学院へ。JICA(国際協力機構)のインターンとしてガーナに赴任。2007年からUNICEF(国連児童基金)職員となり、16年からギリシャに赴任。21年から休職中。7月に一般社団法人「SDGs in Sports」を設立予定